「商品先物取引法施行規則」及び「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」改正案に対する意見書

「商品先物取引法施行規則」及び「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」改正案に対する意見書

2014年(平成26年)4月21日


農林水産省食料産業局商品取引グループ 御中
経済産業省商務流通保安グループ商取引・消費経済政策課 御中
経済産業省商務流通保安グループ商取引監督課 御中

大阪弁護士会
会 長  石 田 法 子



「商品先物取引法施行規則」及び「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」改正案に対する意見書


 当会は、平成26年(2014年)4月5日にパブリックコメント手続に付された「商品先物取引法施行規則及び商品先物取引業者等の監督の基本的な指針の改正について」(案件番号595114027)に関し、以下のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨
商品先物取引法が適用される個人顧客を相手方とする商品先物取引について、不招請勧誘(顧客の要請をうけない訪問・電話勧誘)の禁止規定を大幅に緩和する商品先物取引法施行規則改正案(第102条の2)に反対する。特に、同条第2号の新設部分は、商品先物取引法第214条第9号の趣旨を逸脱するものであり、到底容認できない。

第2 意見の理由
1 商品先物取引法は、第214条第9号において、商品取引契約の締結の勧誘の要請をしていない個人顧客に対し、訪問し、又は電話をかけて、商品取引契約の締結を勧誘すること(不招請勧誘)を原則として禁止し、「委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為」として、商品先物取引法施行規則第102条の2に定める行為についてのみ、不招請勧誘禁止規定の例外を認める。
今回の改正案では、現行の規則第102条の2第1号ないし第3号で当該業者との間で同種取引を継続的に行っていた顧客に対してのみ認められていた不招請勧誘について、当該業者のみならず他の業者との間でも同種取引を行っていた場合にまで例外の範囲を拡大するとともに(同条第1号)、新たに第2号を設け、①顧客が70歳未満であること、②基本契約から7日間を経過し、かつ、取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認したことのいずれも満たす場合を、新たに例外とするものである。

2 しかしながら、そもそも、商品先物取引における不招請勧誘禁止規定は、商品先物取引による深刻な被害が長年発生し、度重なる行為規制強化のもとでもなおトラブルが解消しないため、与野党一致のもと、2009年7月の商品先物取引法改正で導入されたものである(2011年1月施行)。
しかも、この改正の衆議院ないし参議院の附帯決議においては、「商品先物取引に関する契約の締結の勧誘を要請していない顧客に対し、一方的に訪問し、又は電話をかけて勧誘することを意味する「不招請勧誘」の禁止については、当面、一般個人を相手方とする全ての店頭取引及び初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること。」「さらに、施行後1年以内を目処に、規制の効果及び被害の実態等に照らして政令指定の対象等を見直すものとし、必要に応じて、時機を失することなく一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること。」と決議している。
にもかかわらず、不招請勧誘禁止規定の例外の範囲を、経済産業省及び農林水産省の改正案のように拡大することは、個人顧客に対する不招請勧誘を実質上解禁するに等しい結果を招来し、法律が個人顧客に対する無差別的な訪問電話勧誘を禁止した趣旨を没却するものである。

3 改正案は、規則第102条の2第2号で、勧誘の対象者が70歳未満であることを確認の上、7日間の熟慮期間を設け、かつ、顧客の一定の理解度を確認した場合を、不招請勧誘の例外に加える。
熟慮期間を設けることは、一見個人顧客に対する配慮を示したかにも見えるが、過去には同様の熟慮期間を設けた「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」(現在は商品先物取引法に統合)の例があったが、同法律の熟慮期間の定めは顧客保護のためには全く機能していなかった。また、取引内容についての顧客の理解度の確認は、商品先物取引業者の判断で行うものであって、恣意的な判断を招きかねず、顧客の保護として十分なものであるとはいえない。
この点に関連して、「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」を同時に改正し、そこで顧客保護の手当をすることも提案されているが、その内容は、いずれも決して目新しいものではなく、過去において自主規制として定められ、あるいはガイドラインに記載されていながら、被害事例において、多くの潜脱事案が報告されていたものである。このような手当では、同様の事案が数多く発生する危険は払拭できないのであって、その有効性にははなはだ疑問がある。
そもそも、法律は、例外的に「委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為」(商先法214条第9号括弧書き)を定めることを規則に委ねているに過ぎない。改正案は、実効性のない熟慮期間を設けることによって、70歳未満の者に対して、事実上不招請勧誘を解禁するものであり、法律自体の改正を行うに等しい。このような改正は、国民の代表者たる国会において十分な審議を経て行われるべきことであって、規則の改正という形で行うことは到底容認できない。
また、改正案は、規則第102条の2第1号において、現行の規則第102条の2が当該業者と継続的に取引を行っていた場合についてのみ例外を認めているものを、当該業者に限ることなく、他の業者との取引経験があった場合にまで例外の範囲を拡大する。しかし、顧客と他の業者との取引経験については、正確かつ具体的な内容を勧誘する業者が知ることは困難であることから、不正確な情報に基づいて不招請勧誘がなされるおそれもあり、この点においても、改正案の内容には賛成できない。

4 しかも、今回の不招請勧誘禁止規定の見直しは、経済産業省に設置された産業構造審議会の商品先物取引分科会が2012年8月に取りまとめた報告書の内容に反するもので、見過ごすことのできないものである。
すなわち、同報告書では、「不招請勧誘の禁止の規定は施行後1年半しか経っておらず、これまでの相談・被害件数の減少と不招請勧誘の禁止措置との関係を十分に見極めることは難しいため、引き続き相談・被害の実情を見守りつつできる限りの効果分析を試みていくべきである」、「将来において、不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として、実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ、不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」とされ、商品先物取引に関する不招請勧誘規制を維持することが確認された。
しかるに、現在も、個人顧客に対し、金の現物取引や損失限定取引を勧誘して顧客との接点を持つや、すぐさま通常の先物取引を勧誘し、多額の損失を与える被害が数多く発生していることが、日本弁護士連合会の会員からも報告されており、商品先物取引業者の営業姿勢はまったく変わっていない。農林水産省及び経済産業省も、昨年12月に不招請勧誘禁止規定違反があるとして、ある商品先物取引業者の行政処分を行ったところである。このような事情からは同報告書が見直しを検討する前提とした「実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ、不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況」には到底至っていない。

5 当会は、2013年11月12日付け「商品先物取引の不招請勧誘禁止規制撤廃に反対する会長声明」で、①商品先物取引業者が、不意打ち的な勧誘や執拗な勧誘により、顧客の本来の意図に反した取引に引き込み、多くの被害を生んできたという歴史的事実から不招請勧誘禁止規定が設けられたこと、②不招請勧誘禁止規定が導入された結果、トラブル・被害が減少し一定の効果をあげたこと、③他方で不招請勧誘禁止規制を潜脱する業者の勧誘により消費者が被害を受ける事例が、なお相当数報告されていることなどを理由に挙げ、商品先物取引についての不招請勧誘規制を維持するよう求めた。同様の意見は、日本弁護士連合会や近畿弁護士会連会合会、各地の単位弁護士会および数多くの消費者団体からも出されている。内閣府消費者委員会も、2013年11月13日付けの「商品先物取引における不招請勧誘禁止規制に関する意見」で、「仮に商品先物取引における不招請勧誘禁止規制が金融デリバティブ取引に係る規制と同程度に緩和されると被害が再び増加することが予想される一方、商品先物取引に係る現状の不招請勧誘禁止規制の存続によって市場の健全な発展が阻害されるとは言えないため、不招請勧誘禁止規制を緩和すべきではない」と明言している。

6 前述のとおり、改正案は、2009年7月に改正された不招請勧誘禁止規定を骨抜きにするもので、法律が省令に委任した範囲を逸脱するものというべきであり、また、前記産構審分科会の報告書や内閣府消費者委員会の意見書をも無視するものであって、到底認めることが出来ない。70歳未満の個人顧客に対する無差別的な訪問電話勧誘を許容するような立法事実はおよそ存在しないのであり、今回の改正案の提示は、つまるところ、商品先物取引業界の規制緩和の要請を安易に受け入れようとするものといわざるをえず、透明かつ公正な市場を育成し、委託者保護を図るべき監督官庁の立場と相容れないというほかはない。
 それ故、当会は、個人顧客の保護の観点から、商品先物取引の不招請勧誘禁止規定を骨抜きにするような今回の商品先物取引施行規則第102条の2の改正提案には強く反対する。

以上

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