教育委員会制度の改定に反対し、政治的中立等の確保を求める会長声明

教育委員会制度の改定に反対し、政治的中立等の確保を求める会長声明

1 政府は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を国会に提出し、現在参議院で審議が行われている。改正案は、教育委員会制度の政治的中立性・継続性・安定性を損なうところがあり、当会は改正案に反対する。
2 改正案の要点は、
  ①各自治体の首長に「教育行政の基本方針」となる大綱を定める権限を与え、首長は政府が策定する教育振興基本計画を参酌する
  ②教育委員を総理する役職として、教育長と教育委員長とを統合して権限を強めた新「教育長」を置く
  ③これまでの教育長は教育委員会によって任命されていたが、新「教育長」は、首長が議会の同意を得て任命する
  ④新「教育長」について、一般公務員と同様の給与・勤務条件としたうえ、その任期を、教育委員(4年)より短くして、3年とする
  ⑤首長と教育委員会をもって構成する総合教育会議を設け、首長が主催したうえ、同会議で調整された事項について、教育委員会に尊重義務を課すというものである。
3 しかし、改正案には、以下の問題点がある。
  第1に、首長の関与が強まることにより、教育の政治的中立性が損なわれるおそれがある。また、選挙によって政治的傾向の異なる首長が選ばれれば、それまで行われていた教育行政が突然変化し、教育の継続性に影響が出て、一定の安定性をもって教育を実施することが困難となる。
  第2に、新「教育長」が、その権限を強化される一方で、首長により直接任命され、教育委員よりも短い3年任期となるなど身分保障は弱められることにより、新「教育長」は、教育委員会で審議された結果よりも首長の意向を受けて、その強められた権限行使をすることになり、政治的中立性・継続性・安定性を損なう恐れが高まる。
  第3に、首長が策定する大綱の内容は、国の教育振興基本計画を参酌することとされ、地方自治体の権限であるはずの教育行政について、国の意向が制度的に反映することとなる。
これらは、教育を地方自治体の事務とし、行政権限を独立行政委員会である教育委員会に属させた教育委員会制度の趣旨を没却するものである。
4 教育委員会制度は、戦前の国家主義教育の反省から生まれ、教育は地方自治体の事務としたうえ、当初は住民の公選による教育委員の選任が行われた。首長の任命による選任となった後も、旧教育基本法10条1項に「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」と規定されていたこともあり、首長から独立して教育行政に当たってきた。
教育行政の権限は、子どもたちの学習権・成長発達権の実現のためにこそ行使されるべきであり、時の首長の意向によって左右されてはならない。今回の改正案では、首長の関与の強化、首長の直接任命による新「教育長」の権限強化並びに国の意向の教育行政への制度的反映が図られているが、学校教育の当事者である子どもたち自身、保護者、現場の教職員が、教育行政に意見を表明し、関与する方策はみられない。
当会は、教育委員会制度は、子どもの学習権・成長発達権を保障することを中心とする観点から議論されるべきであると考え、教育行政の政治的中立性、継続性・安定性を阻害する改正案に反対するものである。

2014年(平成26年)6月9日
大阪弁護士会
会長 石 田 法 子

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