病床転換型居住系施設に反対する会長声明

病床転換型居住系施設に反対する会長声明

 日本の精神科病床は約35万床あり、30万人を超える精神障害者が入院している。そのうち約20万人が1年以上の長期入院患者であり、10年以上の入院患者は約7万人もいる。このような入院患者数や入院期間は諸外国と比較しても群を抜いて多い。この中には、適切な支援があれば地域社会で生活できるにもかかわらず入院を余儀なくされている社会的入院患者も多数含まれている。これは、国による精神障害者に対する隔離収容政策が招いた人権侵害である。
 国は、現在「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会(以下「検討会」という)」において、「病床の適正化により将来的に不必要となった建物設備を有効活用する」として、精神科病院の病棟をグループホーム等の施設(いわゆる病床転換型居住系施設)に転換することにより精神科病床や長期入院患者を減らす方向を打ち出している。本年6月17日に開催された第3回検討会においては、精神科病棟を居住の場として活用する方策を全面的に打ち出した「具体的方策の今後の方向性(取りまとめ)(案)」が示され、7月1日の次回検討会で報告書が正式にまとめられる予定である。
 入院患者の退院は、本人が入院前に暮らしていた地域社会への復帰でなければならない。精神科病棟をグループホーム等に転換しても、入院患者の居場所は変わらず、地域社会とは隔離されたままである。また、従前の医療従事者が施設スタッフとして残る場合には入院患者との上下関係が温存される。その施設は精神科病院の延長にすぎず、「地域移行」といえるものではない。
 日本が批准した障害者権利条約19条は、「障がいのある人が、障がいのない人と等しく、その居住地を選択し、どこで誰と生活するかを選択する機会を保障し、特定の生活施設で生活する義務を負わないこと、隔離を防止して社会的に包摂されること等の実現のために必要な施策をとること」を締結国に課している。今、国がなすべきことは、精神障害者を長期入院させて社会から隔離してきたことを真摯に反省し、長期入院患者が病院を退院して地域社会で暮らすことができる施策をただちに示し、それを実現することである。入院患者が入院を余儀なくされてきた病院の建物を居住系施設に転換することではない。
 当会は、精神科病院の建物設備を「居住の場」(病床転換型居住系施設)として利用する方策に強く反対し、国及び検討会に対して、その撤回を求めるとともに、障害者権利条約に従い、入院中の精神障害者が退院して地域社会で居住することを保障する施策への見直しを強く求めるものである。

以上

2014年(平成26年)6月30日
大阪弁護士会
会 長 石 田 法 子

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