労働政策審議会の「労働者派遣制度の改正について(建議)」に沿った労働者派遣 法の改正に反対する会長声明

労働政策審議会の「労働者派遣制度の改正について(建議)」に沿った労働者派遣法の改正に反対する会長声明

本年1月29日、厚生労働省労働政策審議会は、「労働者派遣制度の改正について」との建議をとりまとめた。この建議を受けて、通常国会において、労働者派遣法を改正する予定とされている。

上記建議は、労働者派遣法の制定以来の根本原則である「常用代替防止」の考え方を実質的に放棄して、派遣先において事実上永続的に派遣労働者を使い続けることができるようにするものである。すなわち、上記建議は、期間制限のあり方について、①専門26業務による区分を廃止し、②派遣元で無期雇用されている派遣労働者については期間制限を撤廃し、③派遣元で有期雇用されている派遣労働者については派遣労働者個人単位で上限期間(3年)を設定するが、④派遣先は有期雇用派遣の受入開始から3年経過するときまでに派遣先における過半数で組織する労働組合等から意見を聴取した場合には、有期雇用派遣労働者を交代させることによって3年経過後も継続して派遣労働者を受け入れることができる、としている。なお、労働政策審議会では、均等待遇の確保策の導入も議論されたが、建議においてはその導入は見送られ、均衡に配慮する努力義務が謳われるにとどまっている。

そもそも、労働基準法が中間搾取を禁止し、職業安定法が労働者供給事業を禁止していることからも明らかなとおり、使用者は労働者を直接に雇用することが大原則である。間接雇用は、必然的に、身分が不安定となり処遇も低くなりがちであることから、本来禁止されるべきものである。1985年に制定された労働者派遣法は、かかる直接雇用原則を前提としつつ、あくまでも例外的に、専門的な知識や経験等を要する業務について労働力の需給調整のための制度として、労働者派遣を許容したものであり、それゆえ派遣労働者を受け入れることができる業務を限定し、かつ、派遣期間にも制限が設けられ、派遣労働者をもって直接雇用労働者に代替させてはならないという常用代替防止の考え方が採用された。その後、1999年の法改正により派遣対象業務が原則自由化(ネガティブリスト化)されたが、その際にも、労働者派遣は、あくまでも臨時的・一時的な労働力需給の迅速かつ的確な調整のための制度として許容されるものにすぎず常用代替となってはならないとの考え方は維持され、自由化業務について派遣を受け入れることができる期間は原則1年に制限され、期間制限違反には罰則も規定された。すなわち、労働者派遣は、あくまでも労働力需給の迅速かつ的確な調整のためという必要性があるからこそ、雇用の不安定さや中間搾取による賃金低下という弊害があったとしても例外的に許容されてきたのである。

ところが、今回の建議は、この常用代替防止の考え方を事実上放棄するものであって、到底容認できない。実効性ある均等待遇の確保策の導入もないままに、期間制限が事実上撤廃されるならば、派遣先は、永続的に派遣労働者を使い続けることができるようになり、直接雇用労働者の地位が不安定で低賃金な派遣労働者に置き換えられていくことになるであろう。

当会は、2008年10月24日付で「労働者派遣法の抜本的改正を求める会長声明」を発表し、間接的な雇用形態である労働者派遣については、雇用責任があいまいになりがちであることから、とりわけ厳格な法規制と違法行為に対する制裁が求められ、具体的には、①雇用は直接雇用が原則であり、派遣労働は直用代替の危険がない臨時的・一時的業務に対するものを例外的に許容するものであることを明記すること、②派遣可能業務を専門業務のみに限定すること、③不安定な雇用形態である登録型派遣そのものを原則禁止すること、④派遣先労働者との均等待遇を認めること、⑤派遣先に派遣労働者の労働条件に関する団交応諾義務があることを明文化すること、⑥行政による監督権と罰則の強化などの規制が盛り込まれるべきこと等を提言してきたところである。

当会は、当会の求める法改正とまったく相反する方向で労働者派遣法を改正しようとする上記建議に強く反対するとともに、改めて、労働者派遣法について、上記当会の提言に沿った方向での抜本的改正を求めるものである。

2014年(平成26年)1月30日

大阪弁護士会会長 福原 哲晃

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