「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(素案)」に対する意見書
・「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(素案)」に対する意見書
2014年(平成26年)8月22日
内閣官房特定秘密保護法施行準備室 御 中
大阪弁護士会
会 長 石 田 法 子
会 長 石 田 法 子
「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(素案)」に対する意見書
はじめに
当会は、特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)の制定には一貫して反対してきており、その立場は今も変わっていない。
むしろ、今回の運用を図るための基準(仮称)(素案)(以下「運用基準」という。)を検討した結果、市民の知る権利が侵害されるおそれは何ら払しょくされておらず、評価対象者等のプライバシーが侵害される上、特定秘密をチェックする制度も不十分であることが明らかとなった。
当会としては、改めて秘密保護法の廃止を求めるとともに、以下の通り、運用基準に対する意見を述べる(各数字は運用基準に対応している。)。
Ⅰ 基本的な考え方
2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項
(1) 拡張解釈の禁止並びに基本的人権及び報道取材の自由の尊重
(意見)
報道又は取材の自由については、特定秘密の保護に関する法律【逐条解説】(以下「逐条解説」という。)の第22条における2(3)及び(4)に記載されている例示を具体的に明記すべきである。
(理由)
秘密保護法第22条2項については、「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為」及び「専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする」の文言について、その適用範囲が問題とされた。この点、同条の逐条解説においては、前者については2(3)(逐条解説118頁)において、後者については2(4)(逐条解説119頁)において、それぞれ具体例が例示されている。
言うまでもなく、取材の自由は市民の知る権利に奉仕する重要な憲法上の権利であるから、具体例の例示では充分ではないものの、間違っても取材行為が萎縮することがないよう、最低限でも上記の例示は明記すべきである。
Ⅱ 特定秘密の指定等
1 指定の要件
(1) 別表該当性
「別表第1号(防衛に関する事項)」
イ 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究
(意見)
運用基準における別表第1号イbの記載は削除するべきである。
(理由)
当該箇所において、「b 自衛隊及びアメリカ合衆国の軍隊(以下、「米軍」という。)の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究」が列挙されている。かかるbの記載は、aの記載に「又はアメリカ合衆国の軍隊」が加筆されたものである。
しかし、そもそも、秘密保護法の別表第1号イは、「自衛隊の運用」等とされており、米軍の運用等は別表第1号イには該当しないはずである。aとbの記載を比較してみると、「米軍の運用」等が加筆されているか否かだけの違いであり、「米軍の運用」等が別表第Ⅰ号イに該当しない以上、「米軍の運用」等の記載は削除されるべきであり、ひいては、bの記載自体重複するものとして削除されるべきである。
そもそも、同法第3条1項は、「当該行政機関の掌握事務に係る別表に掲げる事項に関する情報」としており、ここにいう「行政機関」とは我が国の行政機関とされているところ、「米軍の運用」等は、我が国の行政機関の掌握事務には該当しない。また、同項は、「(日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法第1条第3項に規定する特別防衛秘密に該当するものを除く。)」と明記しており、同法第3条1項及び別表第1号イの記載の仕方からすると、ここでいう情報は、「自衛隊の運用」等の情報に限定されており、「米軍の運用」等の情報は明確に除外されているとしか読みとれない。
とすると、bの記載は、法が「自衛隊の運用」等に関する事柄に限定しているにもかかわらず、運用基準において法律が指定していない「米軍の運用」等に関する事項にまで秘密の指定の範囲を広げており、法に反する運用基準である。「米軍の運用」等に関する事項を特定秘密として指定するためには、法律の改正が必要である。
以上のことから、運用基準における別表第1号イbの記載は削除するべきである。
ニ 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究
(意見)
運用基準cの項「c 自衛隊及び米軍の防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究」の「米軍」とあるのを削除するべきである
(理由)
かかる箇所において「c 自衛隊及び米軍の防衛力の~」と記載されているが、別表第1号イbのところで述べた同様の理由で、「米軍の」を削除するべきである。
「別表第2号(外交に関する事項)」
ロ 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針
(意見)
運用基準における別表第2号ロa(a)の記載は削除されるべきである。
(理由)
かかる箇所において「a 外国人の入国の禁止等又は邦人の外国への渡航の自粛要請」が記載されているが、別表第2号ロは、「貨物」の輸出入の規制その他の措置であり、「人(外国人及び邦人)」の移動の規制は含まれていない。外国人の入国規制及び邦人の海外渡航に関しては、人の移動の自由の問題であり、「貨物」と同列に扱われるものではない。
当該情報を特定秘密として指定するためには、法律の改正をする必要がある。
よって、運用基準における別表第2号ロa(a)の記載は削除されるべきである。
(2) 非公知性
(意見)
運用基準8頁(2) 非公知性3行目の「公表されていると認定する場合には」は、「公表されている場合には」とされるべきである。
(理由)
たとえば、外交に関する情報等で特定秘密として指定されている場合、相手国において当該情報を合法的に入手したときなどは、わが国においても非公知性の要件を欠くに至ったものとして、特定秘密の指定を解除すべきである。
このような場合にまで、特定秘密の指定を継続させることは、日本政府にとってのみ不都合な情報を隠ぺいすることを意図しているものとみてよい。
この点、「認定する」という主観的要件が入れば、濫用のおそれがあり相当でない。
したがって、「認定する」との文言は削除すべきである。
3 指定手続
(2)(意見)
指定の要件を満たしていると判断する理由は、単に別表に該当する旨だけでなく、別表に該当する具体的事情を明記すべきである。
(理由)
例えば、単に別表一イに該当することが指定の要件を満たしている理由とされれば、実質的には、何も理由が明記されていないことと同じであるから、該当することの具体的事情が明記されるべきである。
(4)(意見)
災害時の住民の避難等国民の生命及び身体を保護する観点から公表の必要性が生じるような情報は、そもそも秘密指定の対象とされるべきではない。
(理由)
災害時の住民の避難等国民の安全及び身体を保護する観点から公表の必要性が生じるような情報が秘密指定されていた場合、公表の必要性が生じた時点で公表したとしても、危険がさし迫った時点での公表となるので、国民の安全及び身体を保護できない。むしろ、そのような情報は、国民がすぐに避難できるように広く公開すべきであって、そもそも秘密指定になじまないというべきである。
この点、逐条解説においても、「自然災害や事故への対処に関する情報については、当該情報そのものが、その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるものとして特定秘密に指定されることはない。これは、人為的に発生するものではない自然災害等に関する情報は、その漏えいを防止したとしても、発生を防止できるものでなく、また、外国やテロ組織等が関係情報を入手したとしても、対抗措置が講じられ、自然災害等への対処に直ちに支障が生じるといった性格のものではないからである。」とされているところである(逐条解説8頁)。
福島原発事故で問題となったSPEEDIの情報が隠蔽されるようなことがあってはならないし、国民の安全を守ることを目的としている秘密保護法が、国民の安全を脅かすようなことがあってはならない。
4 指定の有効期間の設定
(1)(意見)
(1)記載の「2年等」などの年数はあくまでも例示に過ぎず、可能な場合はさらに短い年数を定めるよう明記すべきである。
(理由)
情報の内容に応じて、「2年等」「3年等」「4年等」と記載されているが、本来は「最も短い期間を定めるものとする」とされていることから、例えば情報通信技術のめまぐるしい発展に鑑みれば2年程度が妥当であり、誤解のないよう、例示に縛られずにさらに短い年数を定めることを明記すべきである。
Ⅲ 特定秘密の指定の有効期間の満了、延長、解除等
(意見)
刑事訴訟法第316条の26に基づく証拠開示決定がなされた場合、刑事訴訟規則第192条に基づく証拠提示命令がなされた場合及び民事訴訟法上の文書提出命令が出された場合には、秘密指定が解除されることを明記すべきである。
(理由)
刑事裁判において、裁判所が上記の決定あるいは命令を出した場合には、公平公正な裁判を受ける権利の保障、被告人の防御権の保障など適正手続の保障の観点から、対象となった特定秘密は自由に取り扱われるべきである。したがって、決定あるいは命令が出た場合は、誤解がないよう、秘密指定が解除されるべきことを明記するべきである。
この点、逐条解説57頁の脚注4において、同様の指摘がなされているところである。
また、民事訴訟法上の文書提出命令についても、逐条解説60頁以下に書かれているとおり、解除すべきことを明記すべきである。
なお、本来は法律で規定すべき内容である。
1 指定の有効期間の満了及び延長
(1) 指定時又は延長時に定めた有効期間が満了する場合
(意見)
①「掲げるとき」を経過した後、指定の有効期間を延長するときに、慎重に判断するのではなく、原則的に指定期間が満了し、延長には特段の理由が必要とされるべきである。
②人的情報源に関する情報に関しても、例えば「当該人が亡くなったとき」などとして、原則的な期間を設けるべきである。
③政令で60年超を定めることは、原則的に禁止すべきである。
(理由)
①運用基準のア乃至オは、秘密保護法第4条4項において、永久に秘密指定が可能とされている情報であるから、かかる情報について、「掲げるとき」を明記して安易な延長を抑制する点、及び延長の理由を書面等で明らかにしておくことは評価できる。
しかし、「掲げるとき」を経過したときは、かかる情報は通常は秘密にし続ける必要がないはずであるから、原則的に指定期間は満了するとされるべきであり、延長には特段の理由が必要とされるのが相当である。
間違っても、安易な延長、永久秘密化がなされるべきではない。
②人的情報源に関しても、当該人が亡くなったときなどは、通常は人的情報源を秘密にし続ける必要はないことから、ア乃至オと同様、原則的な期間を設けるべきである。
たしかに、人的情報源に関する情報を開示した場合、当該人の家族等に何らかの被害が及ぶ可能性も否定できないが、必然的な事態ではないことからすれば、原則的な期間を明記した上で、個別事情に配慮して理由も明記して期間を延長すべきである。
③秘密保護法第4条4項7号では、政令で60年超の情報を定めることができるとされているが、政令で定めることが可能となれば、同項で1号から6号で限定列挙した意義を没却させ、安易な永久秘密指定が可能となり、法律の潜脱ともなりかねない。
したがって、政令で60年超を定めることは、原則的に禁止すべきである。
(4) 通じて30年を超えて延長する場合
(意見)
30年までの指定が原則であることを明記すべきである。
(理由)
そもそも、30年を超えてまで秘密にすべき情報はごくわずかであると考えられる上、市民の知る権利の保障の観点からは、30年を超える秘密指定は極めて限定的な情報に限られるべきであるから、安易な30年超の延長がなされないよう、原則として30年までと明記すべきである。
3 指定が解除され、又は指定の有効期間が満了した当該指定に係る情報を記録する行政文書で保存期間が満了したものの取扱い
(1) 指定の有効期間が通じて30年を超える特定秘密
(意見)
30年を超える特定秘密に係る情報をすべて国立公文書館等に移管するのは当然である。
(理由)
秘密保護法第4条6項では、30年を超える旨の内閣の承認を得られなかったときは、当該情報を国立公文書館等に移管する旨を定めている。他方、30年を超える特定秘密については、すべて国立公文書館等に移管するのではなく、公文書管理法第8条1項の規定に基づいて、歴史公文書等に該当しないものについては、保存期間満了後は、内閣総理大臣の同意を得て廃棄することも可能とも解釈可能であった。
しかし、以下でも指摘するように、知る権利を保障する観点からは、秘密指定された情報は、すべて国立公文書館等に移管すべきである。
したがって、運用基準は、かかる観点から当然である。
(2) 指定の有効期間が通じて30年以下の特定秘密
(意見)
30年以下の特定秘密についても、すべて国立公文書館等に移管すべきである。
(理由)
秘密保護法第4条6項の規定からすれば、30年超について内閣の承認を得られなかった情報以外については、公文書管理法の第8条1項の規定に基づくようにも解釈できるところ、上記のとおり、30年を超えた情報についても、運用基準は同法の適用を排除して、国立公文書館等に移管するとしている。
一方、運用基準では、30年以下の特定秘密については、公文書管理法第8条1項の規定に基づいた処理を行うとしている。しかし、30年超について同法の適用を排除している以上、30年以下の秘密について適用を排除できない理由はない。
この点、逐条解説では、「内閣の承認を得られなかった場合、関係文書を国立公文書館等に移管するとあえて明記したのは、不承認の結果、特定秘密としていた情報が明らかになることをおそれた行政機関が、恣意的な判断でこれを廃棄することを防止することにあると理解されている。」とされている(30頁)。そうであれば、30年以下の秘密であっても、行政機関が恣意的な判断で廃棄することを防止する必要があることに変わりはないから、30年以下の秘密についても、30年超と同様に解すべきである。
公文書管理法第8条1項に従えば、歴史公文書等に該当しないものについては、内閣総理大臣の同意を得て廃棄するとされているため、秘密に指定された情報が全く市民の目に触れることなく廃棄されることとなってしまい、市民の知る権利からして妥当でない。
したがって、30年以下の特定秘密についても、すべて国立公文書館等に移管すべきである。
仮に、公文書管理法に基づくとしても、特定秘密は歴史公文書等に該当するとして、すべて国立公文書館等に移管すべきである。この点、運用基準では、歴史公文書等に該当しない場合として、原本・正本以外の写しの文書や、断片情報が記載された文書が挙げられているが、写しであるからといってその内容に価値がないことにはならないし(もちろん、原本・正本がある場合には、それらが歴史公文書等である。)、断片情報についても同様である。
そもそも、秘密保護法第3条1項では、「我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要である」情報が秘密に指定されるのであるから、公文書管理法第2条6項において、「『歴史公文書等』とは、歴史資料として重要な公文書その他の文書をいう」とされていることからしても、秘密指定された情報は、歴史公文書等に該当するというべきである。
以上のとおり、30年超の特定秘密については、公文書管理法第8条1項の適用がなく、国立公文書館等に移管するとされている以上、30年以下の特定秘密についても同様に解すべきであるし、仮に同項の適用があるとしても、特定秘密の本来的な性質及び市民の知る権利の観点からは、歴史公文書等に該当するとして、国立公文書館等に移管すべきである。
Ⅳ 適性評価の実施
1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方
(2) 調査事項以外の調査の禁止
(意見)
「適法な政治活動及び労働組合の活動について調査することは厳に慎み」とある部分のうち、「適法な」を削除する。
評価対象者の信仰を調査することも、厳に慎まなければならない事項として例示列挙するべきである。
(理由)
運用基準は、適性評価の調査は、秘密保護法第12条2項各号に掲げる事項以外の事項について行ってはならない旨記載しているが、当然である。
運用基準は、厳に調査を慎むべき事項の例示として、当該評価対象者の「適法な政治活動及び労働組合の活動」を掲げる。しかしながら、適法かどうかの判断は、行政機関の判断に委ねられるのであるから、行政機関が違法であると判断すれば、調査事項は同法第12条2項の事項を超えて、政治活動、労働組合活動等に広く及んでしまうことになり、プライバシー保護の観点から適切ではない。
よって、「適法な」との文言は削除するべきである。
また、警視庁や自衛隊情報保全隊が、イスラム教徒やその団体を「国際テロ捜査」あるいは、「イスラム勢力・国際テロ組織関連動向」の名の下で監視していたが、これらの監視活動が信教の自由に対する重大な脅威となることは明らかである。適性評価の調査においても、テロリズムに関する事項の名の下に信教の自由を侵害する事態が予測されるのであり、このような事態を防止するため厳に調査を慎むべき事項として評価対象者の信仰を例示列挙するべきである。
(4) 基本的人権の尊重等
(意見)
「行政機関の長は、評価対象者に対して、適性評価についての同意を強制してはならず、適性評価の実施について同意しなかったとき、又は、同意を取り下げたときには、特定秘密の取扱業務が予定されない部署に配置換をすること以外には、その者に対して、降格、降給など一切の不利益な取り扱いをしてはならない。」ことを加えて記載するべきである。
(理由)
適性評価手続は評価対象者の同意を要件とするが、同意の任意性が実質的に担保されていなければ、同意の強制にほかならないから、適性評価手続は、評価対象者のプライバシーを侵害するとともに意思決定の自由を侵害することとなる。したがって、行政機関の長による同意の強制は禁止されなければならない。
さらに、同意をしなかったことにより、配置換以外の降格や降給などの不利益な取り扱いがなされるならば、不利益な取り扱いをおそれて同意を余儀なくされ、やはり同意を強制されることと異ならないから、同意しなくても不利益な取り扱いをされないことが保障されていなければならない。
ところが、秘密保護法にはこれらの規程が全くなく、同法の重大な欠陥である。
行政機関の長は、同意を強制してはならないことは勿論のこと、部署によっては、同法第11条の者以外には業務を担当できないため配置換はやむを得ない場合があるとしても、適性評価の実施に同意しない者、又は同意を取り下げた者に対して、それ以外の降格、降給などの不利益な取り扱いを一切行ってはならないことを、せめて運用基準に明記し周知するべきである。
3 評価対象者の選定
(1)名簿の提出
(意見)
名簿に登載する評価対象者の要件に関し、「特定秘密管理者は、当該行政機関の職員の職務が現に特定秘密の取扱う者となるとき」と改める。
(理由)
運用基準は、「特定秘密管理者は、当該行政機関の職員として特定秘密の取扱いの業務を行わせる必要があると認めるときは、その者の氏名、生年月日、所属する部署、役職名、特定秘密保護法第12条1項各号のうち該当する号、及び同項3号に該当する場合には該当すると認める理由その他評価対象者の選定に当たって参考となる事項を記載し、又は記録した名簿を作成し、これを適性評価実施責任者に提出する。」とする。しかし、これでは、責任者が特定秘密の取り扱いの業務を行わせる必要があると認めれば、全て評価対象者となり、大量の秘密取扱者予備軍が生まれかねない。
運用基準Ⅳ1(1)では、適性評価は、「プライバシーの保護に十分に配慮しなければならない」とし、「評価対象者の選定に当たっては、過不足なく必要な者に範囲を限って行うようにしなければならない。」としているのであるから、運用基準においては、現にこれから従事しようとする職務が特定秘密を取扱う職務であることに限定するべきである。
(2)行政機関の長の承認
(意見)
適性評価の対象者の名簿につき行政機関の長の承認を受けるにあたって、承認を行うための判断資料の提出を適性評価実施責任者に対して義務づけるべきである。
(理由)
特定秘密管理者が作成し、適性評価実施責任者に対して提出した適性評価対象者の名簿の適法性を担保するために、行政機関の長の承認手続きが規定されていると考えるが、行政機関の長が承認するにあたっての判断材料が示されておらず、このままでは行政機関の長の承認は形骸化すると考えられる。
したがって、その名簿及びそれに付属する資料の提出を適性評価実施責任者に義務付けるべきである。
4 適性評価の実施についての告知と同意
(1) 評価対象者に対する告知
(意見)
告知書において、同意しなかった場合、同意を取り下げた場合、やむを得ない配置換以外には、不利益な取り扱いがないことを告知するべきである。
(理由)
告知書末尾には、「不同意書を提出した場合など、あなたの同意が得られなかった場合には、適性評価を実施しません。また、同意を取り下げた場合には、適性評価の手続を中止します。ただし、いずれの場合であっても、あなたは取扱業務に従事することができません。このため、あなたが現在配置されているポストにおいて取扱業務を行っていたり、取扱業務を行うことが予定されている場合、取扱業務が予定されないポストにあなたが配置換となることなどもあります。」との記載があり、同意しなかった等の場合に「配置換となる」ことのみが告知されており、不同意の結果、それ以外にどのような不利益な取り扱いがなされかもしれないとの強い不安感を与える。このため、事実上、同意が強制される結果となりかねない。
したがって、不同意により特定秘密取扱業務に従事することはできず、やむを得ず配置換になることがあることは記載するとしても、それ以上に降格、降給などの不利益な取り扱いは一切ないことを記載するべきである。
(意見)
告知書において、特定秘密取扱者となった場合の義務(故意又は過失を問わず、特定秘密を漏えいしてはならない等)及び罰則も明示するべきである。
(理由)
同意書を提出した場合には、相当の確率で特定秘密取扱者となることが予測される。それ故に、同意書は、適性評価の同意であるとともに、特定秘密取扱者への就任の同意とも言える。
特定秘密取扱者への就任に当たっての説明、研修などがどの程度のものであるかは不明であるが、その義務と罰則については、告知書においても明らかにしておくべきである。特に、公務員以外の民間事業者の従業員については、これらの点について周知させて、予測可能性を担保するべきである。
(2)同意の手続
(意見)
知人その他の関係者への質問、公務所若しくは公私の団体への照会に際しては、評価対象者に対し、質問あるいは照会することを告知し、その都度同意を取るべきである。
(理由)
同意書には、「調査を行うため必要な範囲内において、省の職員に私若しくは私の知人その他の関係者に質問させ、若しくは私に資料の提出を求めさせ、又は公務所若しくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることがあること。」に同意する旨が記載されているが、ここにいう「知人その他の関係者」とは、Ⅳ5(2)で例示された上司等以外にどの範囲の者なのか、公務所もしくは公私の団体とは、行政機関、信用情報機関、医療機関以外にどのような公私の団体なのか、全く不明である。
このような包括的な同意では、真に個々の質問対象者等や照会先等に対する調査についての同意があったものと見做すことはできない。
評価対象者のプライバシー権を保護するためには、具体的な質問対象者や照会先について、評価対象者に対し告知したうえで、その都度同意をとるべきである。
(意見)
同意については、評価対象者の同意だけではなく、評価対象者の家族(配偶者、父母、子及び兄弟姉妹及びこれらの者以外の配偶者の父母及び子)及び同居人(家族を除く)の事前の同意を要することを運用基準に明記すべきである。
(理由)
秘密保護法第12条2項1号によれば、適性評価においては、評価対象者の「特定有害活動及びテロリズムとの関係に関する事項」が調査の対象となり、その中には評価対象者の家族(配偶者、父母、子及び兄弟姉妹及びこれらの者以外の配偶者の父母及び子)及び同居人(家族を除く)の氏名、生年月日、国籍(過去に有していた国籍を含む)及び住所も含まれる。これらの情報は、家族及び同居人にとってのプライバシーであることは明らかである。
しかしながら、法律は、評価対象者のあらかじめの同意しか規定しておらず、評価対象者の同意があったとしても、家族及び同居人に対するプライバシー侵害は、治癒されない。
ゆえに、運用基準においては、これらの同意を要することを明記するべきである。
(3)不同意の場合の措置
(意見)
不同意書第2項を次のとおり、改めるべきである。
「私は、大臣が私について適性評価を実施することに同意しなかった場合でも、特定秘密の取扱いの業務に従事できないこと、また、私が特定秘密の取扱いの業務に従事できない結果、特定秘密の取扱いの業務が予定されないポストに配置換となること以外には不利益な取り扱いを受けることがないことを理解しています。」
(理由)
不同意書第2項には、「私は、大臣が私について適性評価を実施することに同意しなかった場合、特定秘密の取扱いの業務に従事できないことについて理解しています。また、私が特定秘密の取扱いの業務に従事できない結果、特定秘密の取扱いの業務が予定されないポストに配置換となること等があることについても理解しています。」との記載があるが、前記同様、同意しなかった等の場合に「配置換となる」ことしか告知されておらず、同意の結果、さらにどのような不利益な取り扱いがなされかもしれないとの強い不安感を与える。このため、事実上、同意が強制される結果となりかねない。
したがって、Ⅳ4(1)について述べたとおり、告知書において、同意しなかった場合、同意を取り下げた場合には、「配置換となる」となる以外に不利益な取り扱いがないことを告知したうえで、告知に対応する形で同意書2項を意見のとおり、改めるべきである。
5 調査の実施
(2)上司等に対する質問等
(意見)
関係者に対する質問にあたっては、回答を拒否できることを告知するなどして、これらの者のプライバシーにも配慮するべきであることを明記すべきである。
(理由)
運用基準では、「評価対象者の上司、同僚その他の知人(以下「関係者」という。)に対し、評価対象者に関する質問を行うことができる。」とするのみである。関係者の範囲に特に限定がないが、その者の家族や同居人も排除されていない。また、かつての配偶者なども排除されていない。これらの者にとっては、評価対象者に関する質問は、自らのプライバシーに関する情報と一体となっている場合があり、調査にあたってもこれらの関係者のプライバシーにも配慮するべきである。
したがって、質問を行うにあたっても、回答を拒否できることを告知されるなど特段の配慮がなされるべきである。
(5)公務所又は公私の団体に対する照会
(意見)
照会についての個々の同意がなければ、照会先の守秘義務が解除されないことを明記するべきである。
(理由)
すでに述べたところであるが、同意書に記載されているよう包括的な同意では、真に個々の質問対象者等や照会先等に対する調査についての同意があったものと見做すことはできない。
したがって、照会先が医師あるいは弁護士等、評価対象者との関係で守秘義務がある場合、以上のような同意では守秘義務が解除されない。
これらの照会先等に回答を義務付ける場合には、評価対象者の個々の同意を取るべきである。
(意見)
他の行政機関への照会事項については、公務所などが有する手持ち資料を対象とするものであり、さらなる調査が必要な事項を照会することは禁止されること、秘密保護法第12条2項各号を明らかにするために必要な事項に限定されることを明記するべきである。
(理由)
運用基準Ⅳ12においては、関係行政機関は、必要な情報提供を行うなど、相互に協力するものとされているが、行政機関の長は、他の行政機関の職員等の適性評価の調査を代行してはならないとされている。これは、公安調査庁や警察以外の行政機関の長が、その職員等の適性評価の調査を公安調査庁や警察の公安部門に依頼する等の事態が生じるのを防止するという趣旨である。もし適性評価の調査が公安調査庁や警察の公安部門に依頼することができるならば、公安調査庁や警察の公安部門に膨大なプライバシー情報が集中することになるばかりか、評価対象者に対する身辺調査などが常態化され、そのプライバシーが侵害されるからである。
ところが、公務所への照会の名の下で、上記の身辺調査等の依頼が許されるならば、上記の禁止の趣旨を潜脱することになる。
そこで、運用基準においては、照会の事項は公務所などが有する手持ち資料への照会であり、さらなる調査が必要な事項の照会は禁止されることを明確に規定するとともに、照会事項が秘密保護法第12条2項各号の事項を明らかにするためのものに限定されるべきことを明記するべきである。
6 評価
(1) 評価の基本的な考え方
(意見)
評価の視点として掲げられたもののうち、エオカキの項目は削除するべきである。
(理由)
運用基準は評価の視点として以下の7項目を挙げる。
ア 情報を漏らすような活動にかかわることがないか
イ 情報を漏らすよう働きかけを受けた場合に、これに応じるおそれが高い状態にないか
ウ 情報を適正に管理することができるか
エ 規範を遵守して行動することができるか
オ 自己を律して行動することができるか
カ 職務の遂行に必要な注意力を有しているか
キ 職務に対し、誠実に取り組むことができるか
これらの視点のうち、特定秘密の漏えいを防ぐためであれば、視点として必要なものはアないしウである。その他の視点は一般的な人事評価の視点であり、適性評価の視点とすれば必要はない。
しかも、これらの事項は、調査対象者に対する「質問票」にも、上司等に対する「調査票」にも、調査事項として掲げられてない。そうするとこれらの事項について判断するためには、例外的な調査手段として位置づけられる「上司などに対する質問」「公務所に対する照会」を常に行うことを前提とすることになり、評価対象者のプライバシーをより侵害するものとなる。
よって、このような不要な項目を視点として掲げるべきではない。
7 結果等の通知
(1) 評価対象者への結果及び理由の通知
(意見)
理由の通知についての運用基準の「ただし、評価対象者以外の者の個人情報の保護を図るとともに、理由の通知によって、調査の着眼点、情報源、手法等が明らかとなり、適性評価の円滑な実施の確保を妨げることとなる場合」が濫用されないよう、理由の告知が原則であることを明記するべきである。
(理由)
秘密保護法第13条4項が、「適性評価の円滑な実施の確保を妨げない範囲内において、当該おそれがないと認められなかった理由を通知するものとする。」と定めていることから、運用基準では、「ただし、評価対象者以外の者の個人情報の保護を図るとともに、理由の通知によって、調査の着眼点、情報源、手法等が明らかとなり、適性評価の円滑な実施の確保を妨げることとなる場合には、これが明らかとならないようにしなければならない」と定められている。
しかしながら、評価結果の理由は、後述の苦情の申出の際に評価対象者が反論を行う対象となるものであり、十分な反論を可能とするためには、具体的かつ詳細な理由が記載されることが必要であるので、安易に上記但し書きのような例外的な取り扱いが許されるべきではない。
したがって、運用基準では、理由通知が原則であり、上記例外的な取り扱いを濫用してはならないことを明記するべきである。
8 苦情の申出とその処理
(1) 苦情の処理のための体制
(意見)
苦情受理窓口の苦情処理担当者には、弁護士等、法律に精通した第三者性のある公正な者を任命するべきである。
(理由)
適性評価において不利な評価を受けた調査対象者は、その昇進や昇給にも影響し、場合によっては職場から排除されてしまうなど重大な不利益を被るおそれがあるから、苦情処理については、第三者性のある公正な者をあてるべきである。
9 適性評価実施後の措置
(1)行政機関の職員が特定秘密保護法第12条第1項第3号に該当する可能性がある場合の措置
(意見)
Ⅳ 適性評価の実施9(1)ア(ア)を削除するべきである。
(理由)
適性評価実施後に、評価対象者に、「外国籍の者と結婚した場合その他外国との関係に大きな変化があったこと」「罪を犯して検挙されたこと」「懲戒処分の対象となる行為をしたこと」など、9つの類型の事情があると認められた場合には、その上司等はそれを特定秘密管理者に報告し、特定秘密管理者は、秘密保護法第12条1項3号の「引き続き当該おそれがないと認めることについて疑いを生じさせる事情」に該当すると認めるときには、当該職員が特定秘密の取り扱いの業務を行うことのないよう必要な措置を講じなければならない、とされている。
しかし、外国籍の者と結婚することが外国との関係を大きく変化させるものとして秘密の取扱業務から排除されるとすれば、秘密を取り扱う職員は、外国人とは自由に結婚できなくなる。
これは、職員の婚姻の自由を侵害することとなり、不当である。
12 適性評価の実施に関する関係行政機関の協力
(意見)
運用基準中、「代行してはならない」とされている部分は、「一部又は全部を代行してはならない」とするべきである。
(理由)
運用基準は、「行政機関の長は、他の行政機関の職員及び他の行政機関が契約する適合事業者の従業者についての適性評価の調査を代行してはならない。」としている。
これは、例えば公安調査庁や警察以外の行政機関の長が、その職員等の適性評価の調査を公安調査庁や警察の公安部門に依頼する等の事態が生じるのを防止するために重要な運用基準である。もし適性評価の調査が公安調査庁や警察の公安部門に依頼することができるとすれば、公安調査庁や警察の公安部門に膨大なプライバシー情報が集中することとなり、それらの機関が強大な権力を握ることや、評価対象者に対する身辺調査を常態的に行うことを認めることになりかねないからである。
ただし、運用基準のように、「調査の代行」とすると、評価対象者に対する調査の全部を代行させる場合に限定されるおそれがある。上記理由からすれば、調査の一部の依頼であっても、他の行政機関に調査を依頼することには弊害がある。
したがって、「一部又は全部を代行してはならない」として、一部の調査依頼の場合も許されないことを明記するべきである。
なお、この原則は、むしろ法律に規定するべきものである。
Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等
3 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の検証監察是正
(意見)
附則9条による「行政機関の長による特定秘密の指定及びその解除に関する基準等が真に安全保障に資するものであるかどうかを独立した公正な立場において検証し、及び監察することのできる新たな機関」として、政府から完全に独立した公正な第三者機関を新たに設置するべきである。そして、その機関には、十分な調査権限とともに全ての情報に対するアクセス権限を認めるべきである。
(理由)
附則9条によると「行政機関の長による特定秘密の指定及びその解除に関する基準等が真に安全保障に資するものであるかどうかを独立した公正な立場において検証し、及び監察することのできる新たな機関」として、特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理が、特定秘密保護法及び施行令の規定並びに運用基準に従っているかを検証、監察するために、内閣府の下に政令によって「内閣府独立公文書管理監」を置くものとしている。また、内閣府訓令により「情報保全監察室」を内閣府に設置し、その室員の中から「内閣府独立公文書管理監」を指定するとしている。
しかしながら、そもそも、「内閣府独立公文書管理監」自体、内閣府内におかれることから、「独立」とは名ばかりで政府から独立した機関ではない。
しかも、その選任母体となる情報保全監察室の構成メンバーの選任基準が明確ではなく、防衛省、外務省、警察庁等の審議官レベルの人員で構成するともいわれており、行政機関の職員がその任に当たるのであれば、その出身行政機関等に遠慮して、充分な検証や監察を行えなくなることは想像に難くない。
以上のような機関には、およそ検証や監察の独立性や公正性は期待できない。
また、行政機関の長に対し特定秘密である情報を含む資料の提出又は説明を求め、さらには実地調査を行うことができるとしても、運用基準では、各行政機関の長はこれら求めに応じるべき義務はなく、監視機関として実効性のないものである。
したがって、附則9条による「独立した公正な立場において検証し、及び監察することのできる新たな機関」とするためには、まず、政府からは全く独立した機関でなければならず、その構成員の選任基準が、学者、弁護士その他外部の有識者を入れる他、行政機関から選ばれるメンバーについてもノーリターンルールを導入して、独立性と公正性を可能な限り確保すべきである。
そして、その機関には、実効性ある監視機関としての十分な調査権限が確保されるべきであり、行政機関には調査に応じる義務が規定されるべきである。
また、その機関には、十分な検証と監察の権限行使のために、全ての情報に対するアクセス権限を認めるべきである。このことは、知る権利と安全保障に関する国際基準からも当然である(ツワネ原則33)。なお、アメリカでは、国立公文書館の部局として設置されている情報保全監察局が、情報保全に関する行政監察権限と行政機関に対する秘密指定解除請求権を付与されているところである。
仮に運用基準を前提にしても、情報保全監察室及び内閣府独立公文書管理監の構成メンバーは上記の選任基準に基づくべきである。
4 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の適正に関する通報
(2)通報の処理
(意見)
上記のとおり、独立した公正な第三者機関を設置した上で、そこを通報窓口とすべきである。
運用基準を前提としても、通報窓口として、行政機関の長又は内閣府独立公文書管理監の任意選択制とするとともに、衆参両院に設置されることになった情報監視審査会も通報窓口に加えるべきである。
また、通報にあたっては匿名でも可能にするべきである。
(理由)
上記のとおり、内閣府独立公文書管理監は、独立した公正な第三者機関とは言えないから、新たに独立した公正な第三者機関を設置した上で、第一義的にはそこを通報窓口とすべきである。
運用基準においては、内部通報をきっかけとして特定秘密の指定及びその解除又は特定秘密行政文書ファイルの管理の適正化を図ろうとしているが、通報制度の実効性については疑問が大きい。
まず、通報窓口として内閣府独立公文書管理監と行政機関の長としているが、一次的には行政機関の長に通報することを求めており、内閣府独立公文書管理監への直接通報は例外とされている。自らが所属する行政機関の長に対しての内部通報は心情的に躊躇してしまいかねないことや、適正を欠くと思われる特定秘密の指定及びその解除又は特定行政文書ファイル等の管理を行っている当該行政機関の長に通報しても、通報後に適切に処理されるかは疑わしい。
そのため、通報窓口として内閣府独立公文書管理監を用意した以上は、通報者の任意選択でいずれにも通報が可能とすべきである。例外基準は廃止すべきである。
また、先の国会法改正により情報監視審査会が衆参両議員に設置されることとなったことから、通報先として上記審査会も加えるべきである。
そして、通報対象となる特定秘密の指定及び解除又は特定行政文書ファイル等の管理の違法性については、秘密保護法に限定することなく、憲法及び条約、ツワネ原則をはじめとした国際準則等に適合するかにより、違法性は判断されるべきである。
加えて、適正な通報ができる限り多くなされ、通報制度が機能するようにするため、匿名での通報を認めるべきである。
5 法第18条第2項に規定する者及び国会への報告
(3) 国会への報告及び公表
(意見)
報告事項に関しては、単なる件数報告でなく、件数・点数・件名・情報の種類及び指定の具体的理由といった概要も併せて報告を行うべきである。
(理由)
行政機関の長は、毎年1回特定秘密の指定及びその解除又は適性評価に関する所定の事項を、内閣保全監視委員会、内閣府独立公文書管理監に報告するものとしている。また、国会に対しては内閣総理大臣が同様の報告をするものとしている。
定期的な報告を求めることで、各機関による適正確保のための職権発動を促そうとした趣旨と考えられるが、基本的に報告事項は件数報告であり、その内容が概要すら明らかにされるものではない。件数についても情報の数え方しだいでいくらでも操作可能であり、変動もしうるものである。このような報告では、監視の実効性をあげることは困難であると言うほかない。報告事項に関しては、単なる件数報告でなく概要も併せて行うべきである。
運用基準に対する意見は上記のとおりであるが、運用基準及び逐条解説を検討するにあたって、秘密保護法(以下「法」とも言う。)の問題点はより一層明らかになったから、秘密保護法に関して、以下の通り意見を述べる。
意見の趣旨
秘密保護法は速やかに廃止されるべきか、以下で指摘する問題点が根本的に解消されない限り、施行されるべきではない。
意見の理由
第1 これまで当会が指摘してきた問題点は、何も解消されていない
当会は、これまで、秘密保護法に対して、様々な問題点を指摘してきたところであるが、今回の運用基準を見ても、それらの問題点は何ら解消されていない。
すなわち、特定秘密の提供が行政判断に委ねられているために三権分立の観点から問題があることや、処罰範囲が広範かつ不明確であり罪刑法定主義に反することに関しては、運用基準には触れられておらず、それらの問題点は解消されていないままである。
したがって、このまま秘密保護法が施行されてしまえば、特定秘密の提供が行政判断に委ねられてしまい、三権分立が脅かされるおそれがある上、刑事裁判においては被告人の防御権が侵害されるのみならず、処罰範囲が広範かつ不明確なため、不当に処罰されるおそれがあり、罪刑法定主義に反した運用がなされることとなる。
第2 今回の運用基準の検討により、問題点はより一層明らかとなった
1 違法・不当な秘密指定を禁止する明文規定がない
秘密保護法には、違法・不当な秘密指定を禁止するための明文規定がない。たしかに、今回の運用基準Ⅱ1(4)イでは、「公益通報の対象事実その他の行政機関の法令違反の隠蔽を目的として、指定してはならないこと」とされているが、あくまでも運用基準に過ぎず、法規範性を持つものではない。
これに対して、アメリカの秘密保護法制においては、大統領令において、違法・不当な秘密指定は明文で禁止されている。
したがって、法において、違法・不当な秘密指定を明文で禁止するとともに、そのような秘密指定を行った者に対する制裁も定めるべきである。
2 多くの特定秘密が市民の目に触れることなく廃棄されることとなる
法第4条6項の規定からすれば、30年超について内閣の承認を得られなかった情報以外はすべて、公文書管理法の第8条1項の規定に基づくようにも解釈できるところ、30年超の情報についても、運用基準は同法の適用を排除して、国立公文書館等に移管するとしている。しかし、運用基準では、30年以下の特定秘密については、同項に基づいた処理を行うとしているため、歴史公文書等に該当しないものについては、内閣総理大臣の同意を得て廃棄されてしまい、秘密に指定された情報が全く市民の目に触れることなく廃棄されることとなる。しかも、違法・不当な秘密であっても、30年以下の秘密指定や指定の解除による恣意的な運用も可能となるが、市民による行政機関に対するチェック及び知る権利の観点から、そのような運用が許されないことは言うまでもない。
したがって、法において、30年超の内閣の承認を得られない場合に限らず、すべての特定秘密が、国立公文書館等に移管されることを明記すべきである。
なお、国立公文書館等の容量の問題については、マイクロフィルム化やデジタルデータ化で十分対応可能である。
3 独立した公正な第三者機関が存在しない
運用基準では、内閣保全監視委員会、情報保全監察室及び内閣府独立公文書管理監を設置するとしているが、それぞれの役割分担が不明である上、前二者は内閣から独立しているとは言えず、そもそも第三者機関とは言えない。
今回新たに設けられた内閣府独立公文書管理監も、内閣府内の組織に過ぎず、「独立」とはされているが、その構成メンバーによっては内閣府からの独立性さえ確保できない。
そして、仮に独立性が担保されたとしても、どの機関も行政機関に対してすべての特定秘密を開示させる権限がないため、充分なチェックは不可能である。
したがって、独立した公正な第三者機関が、すべての特定秘密をチェック出来るシステムを構築するべきである。
また、違法・不当に指定された秘密を強制的に解除できるシステムも存在しない。
この点、運用基準によれば、内閣府独立公文書管理監は、特定秘密の解除を求めることができるとされているが、強制的に解除できるわけではない。
そのため、違法・不当な秘密指定が発覚した場合であっても、是正を求めるにとどまり、それらはそのまま秘密指定されてしまうこととなるが、これは、国民の安全のために必要な情報のみを秘密指定するという本来の秘密保護法の趣旨から大きく逸脱することになる。
本来であれば、秘密保護法において、独立した公正な第三者機関が強制的に解除できるようにすべきであるが(アメリカではそのような手当がなされている)、同法に定められていないという致命的な欠陥が存在する。
秘密保護法に、独立した公正な第三者機関による強制的な秘密指定の解除請求の規定を設けるべきである。
4 内部通報の実効性が担保されていない
運用基準では、当該行政機関を内部通報の原則的な窓口としており、一定の事由がある場合にのみ、内閣府独立公文書管理監にも通報できるとしているが、それでは内部通報の実効性がないし、そもそも、内閣府独立公文書管理監の独立性自体に問題がある。しかも、内部通報で違法・不当な秘密指定が明らかになったとしても、上記のとおり、強制的な解除権限がないため、全く実効性がない。
これは、内部通報制度を法制定時に検討しなかったことの結果であり、法の根源的な欠陥にほかならない。
また、国会内に情報監視審査会が設けられた以上は、三権分立の観点から、そこも内部通報の窓口として規定すべきである。そうしても、情報監視審査会は、秘密指定の強制的な解除権限までは有していないため、行政に対する過度な介入ともならない。
以上のとおり、法において、情報監視審査会も内部通報窓口として規定するとともに、独立した公正な第三者機関を設置した上、当該機関を第一義的な内部通報窓口とすべきである。
5 適性評価制度は評価対象者やその家族等のプライバシーを侵害する
運用基準によれば、評価対象者の事前の包括的同意のみで、公務所等の機関にも照会できることになっているが、同意書をとる時点では、どの機関に照会をかけるかは不明であるから、評価対象者からすれば、思いもよらないところに照会をかけられ、プライバシーを侵害されるおそれが高い。
そもそも、評価対象者の同意が強制されるおそれが高いことからすれば、法において、同意しなかった場合について、配置換以外の不利益な取り扱いがなされないことを明記すべきである。
また、評価対象者の家族等は、事前の同意なしに調査されるから、やはりプライバシーを侵害される。
しかも、プライバシーを侵害された場合の不服申立制度が法に規定されていない。独立した公正な第三者機関に対する不服申立制度を法で創設すべきである。
さらに、調査の代行禁止は、評価対象者に限らず、その周辺者のプライバシー侵害を防止するためにも、法で規定すべきである。
これらは、法の根本的な問題点である。
6 国会には特定秘密は必ずしも提供されない(法10条1項1号イ)
もともと、法の規定からして、安全保障上の問題があると行政機関の長が判断すれば、行政側は特定秘密の国会への提供を拒める規定となっていたが、逐条解説ではそのことが明らかとなっている。
しかし、国会にも国会内の情報監視審査会にも、特定秘密の解除請求権までは与えられていないから、秘密の提供が義務づけられても、国会が行政機関側の判断を覆すことにはならないから、必要以上に特定秘密に関与出来るわけではない。
むしろ、国政運営上の必要から、国会が特定秘密内容を検討する必要がある場合はあり得るから、国会に対する特定秘密の提供は義務化されるべきである。
7 刑事裁判でも特定秘密は必ずしも提供されない(法10条1項1号ロ)
刑事裁判においても、同様に、行政機関の長の判断で、特定秘密は提供されないこととなる。
しかし、刑事裁判では、公平公正な裁判を受ける権利や被告人の防御などの適正手続の保障の観点から、インカメラ手続がとられている以上、裁判所には常に提供されるべきである。
さらに、逐条解説では、裁判所が開示決定や証拠提示命令を行った場合に秘密の指定が解除されるとされているが、法には明記されていないから、そのような場合には当然に指定が解除されることが明記されるべきである。
これらの根源的な問題点が、法では解消されていないままである。
8 取材の自由及び報道の自由が脅かされ、知る権利が侵害される
運用基準案では、法の拡張解釈を禁止して、取材の自由及び報道の自由に配慮するとしているが、当然のことを指摘しているに過ぎず、法成立過程で問題となった取材の自由及び報道の自由に対する萎縮効果は一切払しょくされていない。
その結果、市民の知る権利が侵害されることは、必定である。
9 国連自由権規約委員会も秘密保護法を問題視している
本年7月24日、国連人権規約委員会は、秘密保護法が広くて曖昧であること、秘密指定に関して一般的な条件を含んでいること、そしてジャーナリストや人権擁護者の活動に深刻な影響を及ぼしうる重罪を課していることに関して、自由権規約19条に抵触しうるとして、懸念を表明した。
このように、秘密保護法は、国際的な規約にも合致しないものである。
第3 結語
以上のとおり、今回の運用基準等の検討により、秘密保護法には看過できない問題点が多々あることが、これまで以上に明らかになったことからすれば、秘密保護法は直ちに廃止されるべきか、上記の問題点が解消されない限り、施行されるべきではない。
以上