生活保護費をプリペイドカード支給する大阪市モデル事業の撤回を求める会長声明

生活保護費をプリペイドカード支給する大阪市モデル事業の撤回を求める会長声明

 大阪市は、2014年12月、全国で初めてプリペイドカードによる生活保護費の支給をモデル事業(以下「本モデル事業」という。)として2015年4月から実施すると発表した。本モデル事業は、2000名程度の「希望者」を募って、生活扶助費(単身世帯で月額約8万円)のうち3万円をチャージ入金したプリペイドカードを貸与し、半年から1年のモデル実施の状況を検証した後に、生活保護利用者全員を対象とした本格実施につなげていくものとされている。
 しかしながら、第1に、生活保護法第31条第1項は金銭給付の原則を定めているが、プリペイドカードは特定の加盟店でしか使用できない電磁的情報であって金銭(通貨)ではない。また、同項ただし書が例外的に認めている現物給付とは、衣料、食糧その他生活必需品の給貸与及び移送、理髪、入浴、介護等の役務提供とされているところ、プリぺイドカードの貸与はこのいずれにもあたらない。また、現物給付が例外的に許される場合である「金銭給付によることができないとき、金銭給付によることが適当でないとき、その他保護の目的を達成するために必要があるとき」にもあたらない。
 したがって、本モデル事業が、生活保護法第31条第1項に違反することは明らかであり、法改正をせずに実施することは到底許されない。
 第2に、いったん支給された生活保護費の使途は原則として自由であるというのが確立した判例であるが(最高裁平成16年3月16日判決)、本モデル事業によれば食生活から趣味嗜好に至る生活全般が福祉事務所に把握、管理されることになり、生活保護利用者のプライバシー権・自己決定権(憲法第13条)を著しく侵害することになる。
 特に、本モデル事業で大阪市と協定しているカード会社は、プリペイドカード販売に際して通常は専用ウェブサイトを使用することが前提となっており、本モデル事業で貸与されるプリペイドカードはそれと異なることが予想される。すなわち、使用のたびに生活保護利用者であることが分かる可能性があり、生活保護に対するスティグマ(恥の意識)を強化するおそれがあることになる。
 第3に、先にも述べたとおり、プリペイドカードは特定の加盟店でしか利用できないところ、生活保護利用者が日常利用している地域の小規模商店や食堂等では利用できない事態が想定され、特に化学物質過敏症等のアレルギーやその他の疾病等を持つため、特定の店舗や生産者等を通じてしか自らの生存や健康を維持する食材や生活用品を入手し得ない者にとっては、生命や健康の安全が脅かされることになる。
 第4に、本モデル事業の目的は、過度なギャンブルや飲酒等に生活費を費消する方への支援にあると説明されているが、過度なギャンブルや飲酒等はいずれも依存症なのであるから、専門的で地道な治療と支援こそが必要であり、プリペイドカードの貸与によって使途を把握管理すれば問題が解決するなどという単純なものではない。そもそも、本モデル事業の対象者はこうした問題を抱えた者に限定されておらず、本格実施時には受給者全員に対象を拡大するとしているのであるから、説明自体が論理的に破綻している。
 第5に、本モデル事業の実施を大阪市に提案したカード会社は、今回のモデル事業を通じ、全国の自治体への展開を進め、米国同様に児童手当や災害手当等の公的分野での電子決済の利用拡大を目指すとしていることからすれば、本モデル事業の実施は、大阪市の生活保護利用者だけの問題ではなく、将来的に公的給付全般の性格を大きく変質させるリスクを含んでいる。

 以上のとおり、本モデル事業には、数多くの問題があることからすれば、その実施は到底容認することができない。当会は、大阪市が本モデル事業の実施を撤回することを強く求めるものである。

2015年(平成27年)2月12日
大阪弁護士会
会長 石 田 法 子

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