大阪府警察西堺警察署巡査による違法取調べを踏まえ改めて全事件・全過程の可視化を求める会長声明

大阪府警察西堺警察署巡査による違法取調べを踏まえ改めて全事件・全過程の可視化を求める会長声明

 2015年(平成27年)2月24日の各紙の報道を契機として、傷害事件で無罪となった大阪府堺市の元教師の男性が、大阪府警察西堺警察署(以下「西堺署」という。)において、自白を強要される違法な取調べを受けたという事実が判明した。
 同男性が大阪府を被告として国家賠償を請求した事件の訴状によれば、同男性は、平成25年9月から、西堺署で傷害被疑事件について任意の取調べを5回にわたって受けた際に、取調べを担当した刑事課の男性巡査から、暴言や名誉を毀損する発言・恫喝を用いた違法な取調べを受け、自白を強要されたとされている。この取調べの状況は、同男性が取調べ時に携帯していたICレコーダーで録音されており、一部公開された録音内容から違法な取調べ状況が裏付けられている。
 大阪府警察は、2010年(平成22年)に東警察署において、恫喝や暴行を用いた違法な取調べが行われ、その状況がICレコーダーに録音され、公表されたという事件が発生し、その取調べ担当刑事が脅迫罪で起訴され、罰金30万円の有罪判決を受けた際、「判決の結果を厳粛に受け止め、職員の指導教養を徹底し、適正捜査に努めたい」との大阪府警察監察室長のコメントを出すなどしていた。しかしながら、その後5年を経て再び違法な取調べが行われていたことに驚きを禁じ得ない。
 今回の違法捜査は、前記男性が取調べの状況を録音していたことから、違法取調べの実態が明らかになったものの、そのような録音ができない状況では、違法取調べの有無を事後的に検証することは困難であり、密室での取調べは、自白強要につながり、えん罪の温床になると言わざるを得ない。
 おりしも、法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」が、2014年(平成26年)7月に、裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件における身体拘束下の被疑者取調べにつき、原則「全過程」(検察官だけではなく、警察官による取調べも含む。)を録音・録画する旨の要綱案を取りまとめ、同年9月に法制審議会の総会で承認されて、法務大臣に答申された。そして、本年の通常国会において、同答申に基づいて、可視化を制度化する刑事訴訟法の改正がされる見込みである。
 今回の西堺署の事例は、任意取調べの傷害事件であり、前記答申のとおりの可視化に関する刑事訴訟法の改正がなされたとしても、可視化の対象外であるが、取調べの可視化が、この度の法改正の範囲にとどまらず、さらに拡大されるべき必要性を如実に示したものである。
 そこで、当会は、今回の事件をふまえ、改めて、このような違法な取調べを防止し、えん罪を根絶するため、大阪府警察及び警察庁に対し、法改正にかかわらず、実務的運用として、速やかに、全ての刑事事件で、任意取調べを含めた取調べの全過程の録音・録画(取調べの可視化)を開始するよう強く求めるとともに、警察の組織全体の問題として、徹底した原因解明及び再発防止策を行うことを求めるものである。

2015年(平成27年)3月6日
大阪弁護士会
会長 石 田 法 子

ページトップへ
ページトップへ