川崎市で発生した事件に関する報道についての会長声明

川崎市で発生した事件に関する報道についての会長声明

 本年2月20日に、神奈川県川崎市において、中学生を被害者とする痛ましい事件が発生した。この件に関して、本年3月5日に発売された週刊新潮において、被疑者とされる少年の氏名や顔写真が掲載されている。
 子どもの権利条約第40条第2項は、犯罪を行ったとされるすべての子どもに対する手続のすべての段階における子どものプライバシーの尊重を保障する。少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)第8条は、少年のプライバシーの権利があらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつきうるいかなる情報も公開してはならないとする。少年法第61条は、少年の氏名、容ぼう等の本人と推知することができるような報道を禁じる。今回の報道は、これらに違反する違法なものである。過去に同様の報道がなされた際などにも、日本弁護士連合会から、この様な報道をしないよう求める意見書を発表するなどして、報道機関に対して少年の匿名報道を要請してきた。それにもかかわらず、その要請を蔑ろにし、少年法等に違反する報道を行った週刊新潮を発行する株式会社新潮社に対して、当会は、厳重に抗議するとともに、報道機関各位においては、国際規範及び法律を遵守するように改めて強く要請する。報道機関各位においては、少年の実名等を報道により明らかにすることが、未だ成長の途上にあり可塑性を有する少年の立ち直りを阻害することになり、ひいては、再非行の可能性を高めることにつながり、社会的に多大な損失を生むことにつながりかねないことを十分に理解した上で報道にあたられたい。
 ところで、近時、この事件についてのみならず、少年事件の凶悪化を指摘する報道が多々見受けられる。しかし、代表的な凶悪事件である少年の殺人事件の発生件数は、平成10年は117件であったのに対し、平成25年は56件(犯罪白書。いずれも検挙人員。)と減少傾向にあり、他の凶悪犯たる強盗、放火、強姦等も同様の傾向にある。また、少年による刑法犯の検挙人員も、最大であった昭和58年が31万7438人であったのに対して、平成25年では9万413人と3分の1以下に減少しており、人口比でみても最高であった昭和56年が10万人(10才以上の少年)あたり1721.7人であったのに対して、平成25年では763.8人と半分以下に減少している。
 このように、少年事件は総数・凶悪事件数とも着実に減少しているといえ、少年事件が凶悪化しているとする近時の報道は、少なくとも件数の点において全くその根拠を有しない。そればかりか、非行の背景にある不遇な家庭環境などの少年自身には如何ともしがたい事柄等を無視し、非行少年に対する不当な悪感情を社会に植え付けかねないものである。現状に鑑みれば、非行少年に対して、再発を防止するという観点から、教育によって社会の一員として育成していくという少年法の取り組みは、一定の成果を上げているといえるのであり、その点は評価されるべきである。
 報道にあたっては、個別の事件のみをとらえるのではなく、より広く冷静な視点をもつことが重要であり、報道機関各位に対しては、その様な視点のもとで、少年事件についての報道に取り組まれるよう要請する。

2015年(平成27年)3月9日
大阪弁護士会
会長 石 田 法 子

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