望まぬ勧誘を防止できる制度の速やかな確立を求める意見書

望まぬ勧誘を防止できる制度の速やかな確立を求める意見書

2015年(平成27年)7月13日


衆議院議長  大 島 理 森  殿
参議院議長  山 崎 正 昭  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  山 口 俊 一  殿
消費者庁長官  板 東 久美子  殿
経済産業大臣  宮 沢 洋 一  殿
内閣府消費者委員会委員長  河 上 正 二  殿


大阪弁護士会      
会長 松 葉 知 幸



望まぬ勧誘を防止できる制度の速やかな確立を求める意見書
-訪問販売お断りステッカー制度及び電話勧誘お断り登録制度の導入を求める意見―


 現在、内閣府消費者委員会の「特定商取引法専門調査会」において、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)の見直しに向けた検討が行われているところ、同法における訪問販売及び電話勧誘販売の勧誘規制の見直しに関し、以下の意見を述べる。

第1 意見の趣旨
 1 現行の特定商取引法は、訪問販売及び電話勧誘販売について、「消費者が要請しない勧誘」を無制限に許容し、訪問販売業者及び電話勧誘販売業者からの具体的な勧誘行為があることを前提として、勧誘を受けた消費者が当該勧誘行為に対して契約を締結しない旨の意思を表示した場合に限り、継続した勧誘や再度の勧誘を禁止するに止まっている。
かかる規制では、消費者が望んでもいないのに訪問販売業者や電話勧誘販売業者から不意打ち的な勧誘を受けてしまうという事態を予め防止することができず、極めて問題である。
 そもそも、消費者が要請しない勧誘(不招請勧誘)は、それ自体が消費者には迷惑であり、また、不当な契約や不本意な契約につながりやすく、悪質商法の温床にもなっている。
 以上の問題を解消するためには、「訪問及び電話による勧誘は、予め消費者が要請した場合にのみ、行うことができる」とする制度(オプト・イン方式)を導入することが望ましいが、少なくとも、今回の特定商取引法の見直しにおいては、「予め、訪問及び電話による勧誘を拒絶する意思を表明した消費者に対しては、勧誘をすることができない」というオプト・アウト方式を導入・拡充し、勧誘がなされる前に、消費者が予め勧誘を拒否する意思を表明することを認め、この意思表明を無視して勧誘を行うことを禁止する仕組みを導入することを強く求める。
 2 特定商取引法の改正にあたり、訪問による勧誘については、これを望まぬ消費者が、勧誘を受ける意思がない旨を表示したステッカーを門戸に掲示した場合には、事業者は勧誘を行ってはならないとする訪問販売お断りステッカー制度(ステッカー方式によるDo-Not-Knock制度)の採用を求める。
 電話による勧誘については、これを望まぬ消費者が電話番号を予め登録できる制度を創設し、事業者は登録のあった電話番号への勧誘を行ってはならないとする電話勧誘お断り登録制度(Do-Not-Call制度)の採用を求める。登録の有無の確認については、事業者の保有する電話番号をチェックする方式(リスト洗浄方式)を採用すべきである。

第2 意見の理由
 1 消費者の要請なくして行われる勧誘(不招請勧誘)、特に消費者が応答を余儀なくされる訪問及び電話による勧誘(広告等を含む。)は、私生活の平穏を害するものであり、消費者にとってそれ自体がはなはだ迷惑なものである。
 また、不招請勧誘は、不意打ち的で一方的なものとなりがちなため、事業者と消費者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差(消費者基本法第1条、消費者契約法第1条各参照)がより顕著となり、消費者が不本意な契約を締結させられることも少なくない。
 さらに、不当・不正な契約にもつながりやすく、悪質商法の温床ともなりやすい。
 したがって、消費者の要請なしに行われる勧誘は、消費者の生活の平穏が害されることのないよう、また、消費者が不本意な契約や不当な契約を締結してしまうことのないよう、一定の制限を設けるなどの必要な立法的手当てがなされる必要がある。
 2 これに対して、現行の特定商取引法は、訪問販売及び電話勧誘販売について、契約を締結しない意思表明をした消費者に対する勧誘を禁止するが(継続勧誘・再勧誘の禁止。特定商取引法第3条の2第2項、同法第17条)、「事前の包括的な勧誘拒絶の表明」は、この「契約を締結しない意思表明」とは認められていない(消費者庁「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針-再勧誘禁止規定に関する指針-」参照)。
 これでは、消費者はいったん事業者からの勧誘に応答したうえで、それぞれの業者に対し、個別に拒否の意思を伝えなければならず、望みもしない訪問販売業者及び電話勧誘販売業者からの勧誘に伴う迷惑自体から免れることができないばかりか、継続した勧誘や再度の勧誘を回避するためには、訪問販売業者や電話勧誘販売業者に対し、面と向かって、あるいは、電話で直接、勧誘を拒否する意思を伝えなければならないという、極めて煩瑣な対応を強いられる。
 しかも、いったん事業者の巧みな勧誘が開始されてしまうと、消費者の側でこれを拒絶することは必ずしも容易ではなく、消費者は不本意な契約、さらには不当あるいは不正な契約を十分に回避することは難しい。
 自宅にいる機会が多い高齢者は訪問販売及び電話勧誘販売の対象になりやすく、2014年度に全国の国民生活センターに寄せられた消費者相談の構成比をみても、70歳以上の人が契約当事者である相談の割合は、店舗販売が約15%、通信販売が約11%であるのに比べて、訪問販売では約38%、電話勧誘販売では約44%にも及んでいる。高齢社会の今後のさらなる進展に伴い、認知症あるいは軽度認知障害(MCI)により判断能力の低下した高齢者の人の数や独居あるいは夫婦のみの高齢者の世帯が増加していくことが見込まれるところであり、現行の特定商取引法で定める継続勧誘・再勧誘の禁止の規制だけでは、訪問勧誘・電話勧誘による消費者トラブルに巻き込まれる高齢者が増えていくことが強く懸念される。
 訪問販売及び電話勧誘販売における高齢者を中心とした消費者被害の発生や拡大を未然に防止するには、現行法の継続勧誘・再勧誘の禁止規定だけでは明らかに不十分である。
 3 そもそも、消費者は事業者と取引をするか、しないかの自由を有しており、取引のための勧誘を受けるか否かについても、消費者の自己決定に委ねられるべきである(「消費者基本計画」2015年3月24日閣議決定参照)。
訪問勧誘・電話勧誘は不要と考える国民の割合が、実に9割以上に及んでいることや、必ずしも予め拒否の意思表明を期待できない消費者も少なくないことから、訪問及び電話による勧誘は、「予め消費者が要請した場合にのみ、行うことができる」とする制度(オプト・イン方式)を導入することが本来的には望ましい。
 現在、直ちにそのような規制を導入しないとしても、継続勧誘・再勧誘を禁止するだけでは明らかに不十分であることから、少なくとも、「予め、訪問及び電話による勧誘を拒絶する意思を表明した消費者に対しては、勧誘をすることができない」というオプト・アウト方式を導入・拡充し、消費者が予め拒絶の意思を表明している場合には、これを無視した勧誘を行うこと自体を禁止する、という制度の導入は不可欠である。
 4 これに対し、事業者の中には、予め拒絶の意思を表明した消費者に対する勧誘を行ってはならないとする制度の導入は、「営業の自由」に対する「過剰な規制」であるなどとして反対する意見もある。
 しかし、営業の自由も、人が嫌がることを行うことを正当化するものではありえない。予め拒絶の意思を表明した消費者に対する勧誘を禁止するとしても、それは、営業活動についての時・場所・方法の規制に過ぎない。
 既に、現行の特定商取引法は、通信販売業者などによる電子メール広告の送信については、「事前の同意がある場合にのみ送信ができる」というオプト・イン方式を採用しており(特定商取引法第12条の3、同第36条の3、第54条の3。なお、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第3条参照)、予め拒絶のあった場合にのみ勧誘を禁止するに過ぎない制度の導入が、過剰な規制であるなどの批判は全くあたらない。
 拒否の表明があった場合の勧誘が禁止されたとしても、消費者からの要請を得た上で勧誘することはできるし、訪問・電話以外の方法による勧誘を行なうこともできるのである。
 少なくとも、拒絶の意思が表明されている場合には、訪問や電話による勧誘を控えて、チラシの投函あるいは郵送に止め、また、さまざまな創意工夫により消費者の要請・同意を得てから勧誘を行うべきである。
 勧誘を受けることの拒絶の意思が予め消費者から表明されているにもかかわらず、それでも、なお、訪問・電話による勧誘を行いたいという考えは、消費者の意向・希望を無視して強引な勧誘を行いたいという考えとどこがちがうのか、はなはだ理解に苦しむところである。
 そもそも、勧誘を望まぬ消費者がその意向を予め表示し、これを無視した勧誘を行わせない、という制度は、契約締結の見込みの低い消費者への勧誘などの無駄な行為を回避でき、効率的な営業を可能にする。
 また、消費者の意向・利益を尊重し強引な勧誘を行わない「まっとうな」事業者からみれば、消費者の意向・利益を無視し、望まない勧誘・強引な勧誘を行う事業者に顧客を奪われ、営業機会を喪失したりすることを防ぐことにもつながる。
 現に、諸外国では、事業者団体において、消費者からの予めの拒絶の意思の表明を受け付け、これを無視した勧誘を行わせない、という電話拒否サービス(TPS)や郵便拒否サービス(MPS)等を実施してきたところであり、わが国においても、一般社団法人日本コールセンター協会が「迷惑セールス電話拒否サービス(TPS制度)」を、公益社団法人日本通信販売協会が「MPS」を、それぞれ実施していたところである。
 このように、消費者が予め拒絶の意思を表明している場合に勧誘を禁止する制度は、消費者の意向や利益を無視してでも強引な勧誘を行おうと考えている一部の事業者以外にとっては、むしろメリットになるものである。
 5 訪問による勧誘において、望まぬ勧誘を予め拒絶できる制度として、訪問勧誘お断り制度(Do-Not-Knock制度)がある。
 この制度は、訪問販売の勧誘を受けたくない消費者が、門戸等に「訪問販売お断りステッカー」等を掲示し、あるいは公的な登録簿に住所を登録し、ステッカー等が掲示された住居等、あるいは登録簿に登録された住所等への勧誘を禁止するというものである。
 この制度は、オーストラリアやアメリカの多くの地方自治体等において採用されており、わが国においても、大阪府その他の地方自治体の消費者条例により、予め拒絶の意思を表明している消費者に対する勧誘を禁止しているが、これもこの制度の一種と位置付けることができる。
 この制度には勧誘を拒絶する意思の表明方法として、①ステッカー等の掲示による方式(訪問販売お断りステッカー制度)と②登録簿への登録による方式(訪問販売お断り登録制度)があるが、わが国においては、既に多くの地方自治体において「訪問販売お断りステッカー」を配布する取組みが重ねられていることや、登録簿の管理のためのコストの問題を考えると、①の訪問販売お断りステッカー制度を採用すべきである。
6 電話による勧誘について、望まぬ勧誘を予め拒絶できる制度として、電話勧誘お断り登録制度(Do-Not-Call制度)がある。
 この制度は、電話勧誘を受けたくない消費者がその電話番号を登録し、これをリスト化し、登録された番号への電話勧誘を法的に禁止する制度である。
 海外では、アメリカ合衆国、アルゼンチン、イギリス、イタリア、インド、オーストラリア、オランダ、カナダ、韓国、シンガポール、スペイン、ノルウェー、ベルギーなど多くの国々が既に導入している(フランスは、2014年に法改正を終え、現在導入に向けての準備を進めている。ちなみに、ドイツ、オーストリアなどでは、要請・同意のない電話勧誘は禁止されている。)。
 この制度には、電話勧誘を行おうとする事業者が拒否登録の有無を確認する方法として、①登録された電話番号のリストを事業者に開示する方式(勧誘拒絶リスト提供方式)と②事業者において保有するリスト電話番号のリスト内の拒否登録を登録機関側がチェックする方式(リスト洗浄方式)の二つがある。
 リストが流用・漏えいするリスクや、登録する消費者としても必要以上に電話番号が開示されることは望まないことを考えると、②のリスト洗浄方式を採用すべきである。
 この制度については、費用負担の問題があるが、勧誘を行おうとするのは消費者ではなく事業者側であることや、諸外国において消費者の登録を有償とする例をみないことから、消費者の登録は無償とすべきである。
 他方、無駄な勧誘を回避することは事業者にとってメリットがあることに加え、事業者が消費者の使用する電話番号を探索的に確認することを防止するため、事業者による拒否登録の有無の確認に際しては、当該事業者に対して手数料を負担させるなどの適切な課金を行うべきである。
7 以上の訪問販売お断りステッカー制度及び電話勧誘お断り登録制度を導入したとしても、そのルールが事業者によって遵守されなければ意味がない。
 したがって、上記各制度で定められ規制に対する事業者の違反行為に対しては、行政処分を行うことができるようにすることは当然として、違反をさらに効果的に抑止するためには適切な罰則も必要である。
 あわせて、規制違反によって契約を獲得した事業者による利得を残さないようにするめ、規制違反による勧誘によって締結された契約の取消権または解除権を消費者に付与することも検討すべきである。

以上

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