弁護士会から

広報誌

オピニオンスライス

DV加害者教育プログラム・NOVO(ノボ)運営者

伊田広行さん

IDA, Hiroyuki

内閣府の男女間における暴力に関する調査報告書によれば、4人に1人は配偶者から暴力を受けたことがあると回答しており、コロナ禍になり、DVの相談件数は増加しています。大阪でDV加害者教育プログラム「NOVO」を運営する伊田広行さんに、DV加害者プログラムに関してお聞きしました。

NOVOの創設のきっかけをお聞かせください。

僕は、もともとは社会活動として非正規女性パートの労働運動やジェンダー問題等に取り組んでいましたが、90年代から2000年代において、大学で授業をする中で、学生には恋愛が身近だと感じ、恋愛とジェンダーの関わりに関心を向けていきました。

2003年に、山口のり子さんが、若者間のDVを「デートDV」と名付けたことを契機に、僕の授業でもデートDVについて教える比重を増やしました。2006年には、アウェア(※DV加害者プログラム、被害女性支援プログラム、デートDV防止プログラム、ジェンダー平等プロジェクトの4つを柱に、DVをなくし、ジェンダー平等社会の実現をめざして活動する、山口のり子氏が代表を務める市民活動団体。https://aware-jp.com/)で、デートDVの講師の研修を受け、大学の外でも、デートDVの話をし始めました。その頃、山口さんは、既に加害者プログラムを実施していましたが、僕は、他の活動で忙しかったことや、加害者に関わるのは特殊なことだと感じていたこともあって、加害者プログラムの実施は考えていませんでした。

2005年に大学の正規教員を辞め、社会活動に力を入れ、2010年頃までは、「ユニオンぼちぼち」(※誰でも、1人でも、現在働いていない人でも入れる労働組合(ユニオン)。https://rootless.org/botiboti/index.php)での活動が中心でしたが、大学での非常勤講師も続けていましたし、講演会等でもデートDVの話を増やしていて、その成果として、2010年にDVの本を書きました。

その頃、被害者支援や子どもとの関わりを考えると、加害者対策が必要なのに、日本では遅れていると思ったんです。勉強をしようと思い、アウェアで、加害者プログラムの研修を実施していたので、100時間のコースを受講しました。座学40時間と、土日に1泊2日で10回、60時間の実践のプログラムでした。勉強する中で、加害者プログラムは確かにやる意味があるなと感じました。

東京での山口さんの活動を見て、大阪でも必要だ、やらなしゃあないと覚悟を決め、3人の女性に声をかけ、4人でNOVOを立ち上げました。最初の講師料は1コマ500円ぐらいで赤字からのスタートでした。今は、1コマ4000円にしています。

大変でも、やると手応えがあるから、だんだん僕の活動の中心になってきて、今では、NOVOを立ち上げてよかったなと思っています。

NOVOでは、加害者プログラムを複数人で実施されているようですが、なぜ、複数人いわゆるグループで実施なさっているのでしょうか。

NOVOの加害者プログラムは、毎週2時間、1年間、50回以上の参加が基本となります。プログラムは、①「振り返り」のセッション:この1週間の中で、怒ってしまったことなど相談したいような事例を出して、皆で話す(皆の意見を聞く)ことと、②教材による学びの二部制です。既存のグループに新人が参加することになり、年間通じてどの時点からでも参加可能となっています。NOVOだけでなく、アウェアを始め、加害者プログラムをグループで実施する団体は多いです。グループにはセルフヘルプ的な力があって、学ぶ力が伸びるので、講義型よりも、お互い学び合うワークショップ型がいいと思っています。

NOVOの対象は男性加害者ですが、DVの被害に遭うことがどういうことか学ぶためには、フェミニズムの視点が必要だと考え、週に1回のセッションには、女性スタッフが必ず参加しています。4人のスタッフのうち2人がセッションに出席して、1人はファシリテーター、もう1人は記録を中心に行いますが、2人で意見を言ったりもします。

ただし、NOVOでは、最初の3回は、1対1の個人面談を行います。やる気を出してもらうために、状況を整理して、NOVOの方針や、頑張ったらこういう成果が出ますよ、ということを伝えています。その3回とは別に、被害者との面談を1回行います。加害者に対し2回の面談を実施し、その後、被害者との面談を1回行い、被害者の状況を知った上で、最後にもう一度、加害者に対し、個人面談を1回行うことが多いです。

他の人がいるのは嫌だ、1対1が良いという人もいますが、僕は、最初の面談で、グループの良さを伝えています。NOVOでは秘密も守られるし、みんないい人だし、みんな頑張っていると、むしろ1対1だと学びは少なくて、グループで、色々な人がいてやり取りをすることが、豊かな学びに繋がると思います。一度参加すれば、みんなグループの良さが分かります。グループのメンバーの進度は様々ですが、先輩達がいるからこそ、助け合ったり励まし合ったりという関係性が生まれます。初めて参加した人に対しては、他のメンバーがウェルカムスピーチをするんですが、みんな上手に経験談を話してくれます。

抽象論を聞いても、明日の生活には役に立ちにくいです。先輩の生きた経験談こそが参考になります。具体例を出し合い、体験談をしゃべり合う中で、メンバー同士がお互いを知って仲良くもなるし、他のメンバーの経験を聞いて、みんな頑張っているから自分も頑張ろうと思えるんです。

NOVOに入る際の契約書において、暴力的になったり、自分の主張を強弁したりする人は、その回のセッションから退出させるという約束をしていますが、実際に参加者を退出させたことは一度もありません。

グループでのプログラムに入る前に、個人の面談を行うということですが、個人の面談の中でNOVOのプログラムの対象にはならないとお断りをされるような場合もあるのでしょうか。危険性の高い人物などはどのように判断されているのでしょうか。

個人の面談に来ない人や面談にきたが、嫌々来て、相手のせいにし、面談で反発し、ファシリテーターの言動に怒り出して帰った人がいました。しかし、これまで2人くらいで決して多くはありません。

また、過去に非常に攻撃的なことをしていて、その執着的な攻撃性が、なんらかの「病的レベル」で変わりにくそうな場合(サイコパス系)や精神疾患でその「攻撃性」の程度、こだわり程度がひどくて学びでは変わりそうにない人もお断りすることがあります。アメリカやカナダでは、加害者のリスク判断についてはマニュアル化されていて、リスクアセスメントのツールがあります。RRP研究会(※DV被害者を精神的に支援するとともに、加害者に対する調査研究・更生教育を行っているNPO法人。https://www.rrpken.jp/)では海外のものを使用しているようですし、アウェアはカリフォルニアのものをベースにツールを作っていて、僕らもそれをベースに判断しています。

受講者には、妻の首を絞めた人、グーで本気で殴った人、ブチ切れて、タクシーの中で妻を殴って車から引きずり降ろしたという人もいます。被害者が逃げようとするから引っ張ったら転んだといい訳をする人や、あるいは、怒りの表現として自分から壁に頭をぶつけたという自傷行為のDVもあるし、きつい言葉でのモラハラDVもあります。ただ、酷いDVでも、反省して、変わるために、自らNOVOに来ているんですから、受け入れることの障害にはならないですし、そのような人だからこそ、変わる必要があります。変わることができないのは、先程申し上げたような病的なレベルで認識が非常に歪んでしまっている人です。

NOVOでは変わったふりをして、家に帰ったらまた暴力を振るうのではないかと心配されるかもしれませんが、NOVOに来たら、身体的な暴力は、ほとんどの場合すぐ止まります。毎週のセッションを欠席するには、絶対に連絡しないといけないし、基本は休まないルールです。何かやったらNOVOでしゃべらないといけないと意識する日々を送るからほとんど止まります。ただ、言葉の暴力は止まりにくい人もいて、子どもに対して、またわあっと怒っちゃいましたという人もいます。

最初の個人面談は1回8000円、その後は、以前は1回3000円でしたが、今はZoomで4回1万円です。毎週教材も準備しますし、その価値はあると思っていますが、やはり経済的には負担ですよね。月に1万円をかけて取り組もうという受講者ですから、不真面目で辞めてもらわなければならない人はほとんどいません。

NOVOに来る人には、鬱っぽいとか発達障害があるような人もいますが、程度問題で、そういう人を排除してしまったら、被害者がかえって不利になってしまうので、NOVOでは、よほど暴力的な言動がない限り、基本的には受け入れています。

NOVOには、妻に言われて来る人が多いそうですね。その点では、妻の意見を聞き入れることができる、DVが自覚できているということでしょうか。

NOVOに来た経緯については、DVを受けた妻から勧められた(行かないと離婚をすると突きつけられた)が約半分、妻が出ていった、離婚を言われたという中で、自分なりに反省して非暴力のプログラムをインターネット等で調べて見つけたが3~4割、どこかで紹介されたが1~2割です。

妻の突きつけは決定的で、非常に大事です。NOVOに来る直前のことを聞くと、DVをして妻に謝った、一筆書いた、警察を呼ばれて警察からも説教された、妻の親も来た、自分の親も来た、今度やったら離婚ですと言われた、そんな人がいっぱいいます。妻に戻ってもらうにはNOVOに通うしかない、次に暴力を振るったら全て終わりだと必死な訳です。

お尻に火がついたからこそ、変わろうと決意できる人が多いです。それでNOVOに来て、DVを学んで、自分のやっていたことが全部DVだったと分かっていきます。例えば、子どもの足を持って逆さまにして折檻したといった、無茶苦茶なことをやった人も、それぐらいでは離婚になるとは思っていないのです。

暴力を振るってもDVと自覚しないし、それでも妻は逃げないだろうとか、謝ったら済むとか思っているんですね。だから、妻が逃げるというのが、一番の突きつけになるんです。

もう離婚は避けられないけれども、DVを改善したいという人はいますか。

被害者の中には、逃げた後、電話やメールに出ない妻や、どこに逃げたか分からない妻もいます。そのような状況でも自分からNOVOに来る加害者はいますし、そういう人は必死で変わろうとしています。現在同居の人や別居しているが関係があって結婚生活を続けたくてNOVOに来る人が多いですが、妻とは離婚になるだろうな、復縁は難しいだろうなと思っている人や、すでに離婚した人も3割くらいはいます。

逮捕・勾留されている時に、被害届を取り下げてもらう条件として、加害者プログラムに通うと約束したケースがあります。また、加害者プログラムに通わないなら、被害届を提出すると言われたといったケースもあります。一部には、加害者に就いた弁護士から、反省するんやったら、そういう所に行く手もあるよ、と言われて来た人もいます。

子どもとの面会交流について、夫に、加害者プログラムに通うことを条件にしたケースがあったのですが、夫は、そこに通うと自分が傷ついて、辛くて仕方がないから勘弁してくれ、と言ってすぐ辞めてしまいました。そういうことはNOVOでもありますか。

僕なら、それこそ加害者の典型で、自分に甘くて、責任を取らないままだから、加害者に対してそれではあかんと思うよ、と言います。NOVOでは、お互い、きちんと気持ちも聞きつつ、変わっていこうとみんなで頑張っていますから、そこで、しんどい等と甘えたことを言うなら、その人は変わらないし、DVも治まらないでしょう。

離婚する、しないに関わらず、面会交流したいなら、しんどくても通うべきだと思います。そこで頑張れないんだったら、面会交流させませんと言ったっていいぐらいですよ。民法改正の議論もありますが、加害者プログラム受講を義務付けなければ、面会交流の質も保てないと思います。

加害者支援プログラムを卒業するかどうかは、どうやって決めるのですか。

50回(約1年間)を超えて、被害者がいいと言ったら卒業です。プログラムの受講が50回を超えたら、被害者への説明の場を持ちます。まず、過去にやったDVを振り返って、DVをしてしまった原因と、その歪んだ考えを認知行動療法でどう変えたのかを説明して、それから、改めて謝罪して、被害者がどれだけしんどかったか共感して、今後、どう償っていくか、再発防止のためにどんな努力をするか、事前に書き起こした上で、被害者に伝えます。被害者もそれを聞き、行動も見て、納得できたなら終了です。

ただ、全員これができるわけじゃない。被害者に話すことを尻込みする人もいるし、聞きたくないという被害者もいます。被害者との関係は難しいです。経験では、1年では難しいけれど、2、3年通う中で、ずっと被害者と別居で音信不通だったのが、年に数回会えるようになって、そこで、被害者が加害者の頑張りを何となく感じて、信頼関係が積み重っていくと、関係性が改善して、次に繋がります。

しかし、別居から同居に戻ると、やっぱり「なあなあ」な関係になりやすい。同居して揉めるからといって通い続ける人もいるけれど、やっぱり加害者は元に戻りやすく、被害者も諦めてしまうのか、何となくフェードアウトしてしまうことがあります。

本当に頑張っていても、ちょっとしたことで怒ってしまったり、なかなかうまくいかないこともあります。被害者側のコミュニケーション能力が非常に高ければ、加害者が変わったら、被害者がそれを認めて、いい循環が始まります。ですが、被害者にも問題があって、変化を受け止められない場合には、別れた方がいいと思います。人と人が一緒に暮らしていくことは、難しいことだとも思います。

先日、統計を取ったところ、これまでの参加者は200人程、一番長い人は5年以上通っていて、1人当たりの平均受講回数は37~38回でした。参加期間は2、3年という人が多いと思います。そのため、受講者が多くなりすぎたので、募集を停止していました。

現在、新規の受講者の受け入れはしていないのでしょうか。

現在は、10名前後のグループを2組、実施しています。受講者が1人卒業すると、1人受け入れていますが、NOVOのスタッフ4人は、みんな他に仕事や社会活動をしていますので、2組(約20名)から増やすことは難しいのが現状です(2023年3月現在、土曜と木曜に1回ずつグループワーク実施)。最初から同じ4人で活動してきて、4人の経験値も高まってきたと思いますので、現状この4人からスタッフを増やそうとは考えていません。

やる意味もやり甲斐もある活動なので、今後は、各都道府県で、色々なチームに出て来てほしいです。僕らが受け入れ人数を増やすことよりも、僕らの経験を踏まえて、各都道府県に、加害者プログラムを実施できる団体を作っていく方が大事だと思います。

卒業できそうなのに、NOVOに依存してしまう人はいませんか。

依存するほど楽しいものではないので依存はないですが、離婚後、子どもとの交流が出来ていて、子どもから、(元)妻の様子を聞いて、そこで自分の態度を反省するような人が、仕事の合間に、月に1回ぐらい来続けることはあります。離婚で終わりじゃない、まだ家族への思いが残っていて、考え続けたいけれど、1人では振り返ることが難しいんですね。

反対に、離婚後、目的がなくなったと感じて、辞めてしまう人も多いです。次のパートナーに出会ったときのために、学び続けてほしいんですけどね。

離婚協議で自分に有利になるという理由で、加害者支援プログラムを受ける人はいませんか。

それはないです。悪賢い人は、少しはそんな気持ちもあるかもしれませんが、努力して本当に変われば、結果オーライです。NOVOでも、最初はちょっと斜めに構えている人はいるのですが、そういう人でも、努力すれば本当に変わります。

毎週、本音で語りますので、自分の内面が問われます。例えば、グループで「妻がカーテンをちゃんと閉めなかったから説教した」と言えば、他の参加者から「何でそんなことでねちねち言うてん、自分で閉めたらしまいやんか」と言われますよね。翻って、他の参加者の例で、自分ならどう言うかということも問われます。そのため、建前だけでは継続して参加することや発言することがしんどくなるでしょうし、悪用しようと思っても通い続けられないと思います。毎週参加で50回以上、お金も払って、こういう話し合いに参加し続けるというのは、「協議で有利になるため」だけでできるような甘いものではないということです。

ただ、アメリカ等の研究では、全員は変わらないです。しかし、何割かの人は変わります。それが3割か4割か5割かはプログラムにもよるし、グループの力にもよります。

DVでも、妻が、関係を再構築したいと望むケースにも出会います。円満調停で、条項の1つとして加害者プログラムの受講を決めることについて、どう思われますか。

意味があると思います。調停条項で約束したルールを守っているかについて、加害者プログラムに通ってチェックし続けることが重要です。加害者プログラム実施機関が監視機関にもなるので、加害者プログラムに通い続けることが本当に大切なんです。約束するだけでは、すぐに守られなくなってしまいます。

本来は、行政やNPOなどが早い段階から家庭を見て、問題が大きくなる前に介入して、教育や支援するための場所が必要なんです。予算を組んで加害者プログラムを義務化するのも、その第一歩と考えたらいいと思います。夫に、加害者プログラムに通うかどうか聞いてみて、通ってくれたら、変わっていけるか見ていく。通わない、通っても変わらないとなれば、避難や離婚を考えるというように、被害者の選択肢も増えます。

DVは、被害者が我慢しているから見えないだけで、非常に多いです。DVと虐待が併発している家庭も多いでしょう。

ところが、児童相談所では、1人で50~100件も抱えて、極めて酷いケースの対応が中心になるから、軽いケースや、面前DVのケースは放っておかざるを得ない。頑張っている職員さんは、一時保護の解除後でも、両親を呼んで面談しますが、来ない親がいても追跡できません。来てくれたとしても、面談するだけで、系統的なプログラムがありません。

だから、DVや虐待に関わる行政機関がもっと連携して、予算を組んで、プログラムとしてDVや虐待を学べる場所や、暴力のない夫婦や親子になる練習をする場所を作って、被害の程度に応じて、通う期間を決めるような仕組みが必要です。

アメリカでは、問題ある家庭には、できるだけ早めにNPOが介入して、夫婦の在り方や子育ての仕方の指導をするんです。酷いDV、酷い虐待になる前のグレーゾーンのケースへの支援が必要だと思います。

大変共感できるお話です。子どもや若者への教育も必要ですね。

刑罰に再教育を盛り込むのは世界的な潮流ですが、そこに行くまでに、家庭で暴れる子、いじめをする子、デートDVをする子といった、10代の若者が学ぶプログラムも必要です。家族や友達、恋人等に対して暴力的な若者は、何らかの問題を抱えているわけですから、学校も家庭も、早めに暴力を見つけ、加害者プログラム等で学ばないといけないと思います。

DVやいじめについて、それがいかにひどいことか、なぜ自分はそんなことをしたのか考え、そして、暴力的ではないコミュニケーションを学ぶ、青少年向けのものが必要です。

僕の大学の授業ですが、デートDVやいじめの問題も、個人、シングル単位で課題分離すれば、そんなことはするべきでなかったと理解してもらえます。同調圧力やクラス内のランク付けの中で、暴力的な関係性に巻き込まれている子が多いんです。学校だけでは無理ですから、学校と連携して、問題を抱えた子への教育の場所は絶対に必要だと思います。

アメリカやカナダには、地域で統合された支援のネットワークの中に加害者プログラムがあります。アメリカのワンストップのセンターでは、相談に行けば、そこで1回だけ状況を聞かれて、保護命令を出す裁判所や、シェルターへの避難や、加害者プログラムの実施等、必要な支援に、ワンストップで繋がれます。司法と行政、教育等が連携する仕組みがある訳です。

司法だけでは不十分で、心理療法・カウンセリングの面も、教育の面も必要ですし、そのコーディネーターも要ります。日本では、そのコーディネートが出来ていなくてばらばらです。

大きな理想はあるのですが、全てお金がかかるし、専門知識のあるマンパワーも必要になります。防衛費を回してくれたら実現できると思うのですが、国はそれをしないだろうから、理想は言えるけれども道は遠いです。

最後に、弁護士・弁護士会にメッセージをお願いします。

僕は、加害者に接していますし、加害者の代理人弁護士と関わることもよくあります。加害者の代理人弁護士が良心的で、NOVOに電話をかけてきてくれたり、加害者を反省に導いてくれることもあります。

弁護士には、加害者の代理人として活動する場合も、被害者との対立を煽るようなことはしないでほしいです。僕は、被害者支援の立場に立つ弁護士にこそ、加害者に就いてほしいとさえ思っています。

本来、弁護士は、社会正義のための存在です。現実には、色々な立場があることは分かりますが、加害者に就く弁護士が、被害者のことも含めて、総合的な良い解決を目指すことが、結局は、加害者への支援になると思います。

逆に、被害者に就く弁護士も、加害者は絶対的に悪いものと決めつけ、裁判で出来るだけ多く金銭を取ろうというだけでなく、加害者の悪質性の程度を見極め、加害者プログラムも含め、加害者が本当に反省するような解決、そして家族全体にとって最もましな解決に近づくように努力してほしいです。

DVの被害者が本当に望むことは、夫も含め、暴力のない人が増えることです。修復的司法という考え方がありますが、僕は、これが弁護士の役割だと思います。僕らは、被害者・加害者両方に会うから見えてくるものがあるので、腹を割った話し合い、相手の本音が見えるような話し合いの場が、本当はあったほうがいいと思います。真の非暴力への解決とは何か、その中の真の謝罪として、加害者が本当に理解して反省してちゃんと謝る、支払いをする、ということがゴールだと思います。

加害者プログラムでは、加害者の良い所も見ます。どんな人にも良い所はあるので、そこに訴えかけていくのです。悪い所にも目を向けて、批判もしないといけませんが、そこのバランスが要ると思います。

ネットの知識に踊らされて、面会交流も共同親権も含め争いの種になり、子どもの奪い合いになるのはよくない構図だと思います。

弁護士や法律に関わる人が、被害者を理解し、被害者と加害者の対立を乗り越える一助になってもらえればと思います。

2023年(令和5年)2月4日(土)

インタビュアー:太平信恵
髙坂明奈
角崎恭子

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