弁護士会から

広報誌

オピニオンスライス

芦屋市長

髙島崚輔さん

TAKASHIMA, Ryosuke

26歳にして、日本歴代最年少で市長に就任された髙島崚輔芦屋市長。市長を目指したきっかけから、芦屋市政・教育への思い入れ、アメリカでの経験も踏まえた上での日本全体の課題など、幅広いテーマについて、お話を伺いました。市政について、熱く、楽しそうに語っておられたのが非常に印象的でした。

市長になるきっかけ―実は弁護士も目指していた!?

若くして地方自治のトップになられた市長ですが、地方自治のほうに歩みを一歩進めたというのは、どういう思いがあったのでしょうか。

社会を良くすることって面白いと思ったからです。中でも、地方自治が最もやりがいがあると思いました。特に市は、一番市民に身近で、良い反応も悪い反応もダイレクトに返ってくるし、何より現場を持っている。教育であれば小学校、中学校、幼稚園を持っています。市民に一番近いところで仕事ができ、世の中を良くできる面白さは、この仕事だからこそだと思いました。

市長は、司法試験、法曹界を目指すという選択はなかったんですか。目指せば、すぐなれそうですが。

すぐになれるわけないと思います(笑)。実際、大学の最初の民法の授業で挫折してしまいました。ただ、実は将来の夢が弁護士だったことがありました。小学校6年生の卒業式では「弁護士になりたい」と宣言したことを覚えています。そのきっかけは、リンカーンでした。リンカーンの伝記を読んで、弱い人を助ける彼の姿に惹かれたんです。大統領ではなく、弁護士時代のリンカーンに影響を受け、弁護士の仕事に興味を持ちました。

そこからお考えが変わるのですか。

人の役に立つ仕事がしたいという根本の想いは変わったわけではありません。ただ、私の転機というと、3.11ですね。私が中2と中3の間の春休みのときに震災があって、その翌年から東北に行って現地の同世代の子たちと交流を始めました。そこで、自分のふるさとのために活動をしている同世代と出会ったんです。ボランティアや地元の温泉を復興させるプロジェクト、海外との交流……勉強や学力といった物差しとは異なる、自分のまわりの地域のために、という思いで取り組む同世代が、輝いて見えました。「地域」について考え始めたのはその頃からかもしれませんね。

市長就任から8ヵ月を振り返って

市政運営は順調ですか。

この仕事を選んで良かったですし、毎日充実しています。改めて、この仕事をさせていただいていることに感謝です。もちろん、うまくいかないこともありますし、うまくいっても反省することもあります。でも、市民の方々から「新しい制度を創ってくれてありがとう」「課題にすぐ対応してくれて嬉しい」と喜びの声を聞くことが、また次の挑戦への活力になっています。

いまは来年度の予算を作っています。私が就任したのが令和5年5月1日なので、今回が初めての予算づくりです。いよいよ皆さまにいただいたご期待を形にできるとワクワクしています。協議を重ねる中には、担当に一から考え直してもらうこともあり、大変だったと思います。ようやく今年の2月半ばに日の目を見るので、市民の皆さまにどんな反応をいただけるか楽しみです。

市長は、就任されて8ヵ月ですが、他の職員の方はかなり長く勤めておられる方もいると思います。そのような職員の方とのコミュニケーションを円滑にするために、心がけていることはありますか。

私が就任した最初の日、令和5年5月1日の訓示で、一つお願いをしました。「私の発言や指示を聞いて、行政のこれまでの「あたりまえ」とは違うなと思われることもあると思います。でもそのときは、法律が理由でできないのか、行政の常識に反しているからできないのかを切り分けて伝えていただきたいのです」と。法律で無理な場合は仕方ないです。でも「違法じゃないけれど前例がないから無理だ」だと、実現できる可能性はありますよね。対話を重ねる中で、違法だと思ったけれど、解釈を県に確認してもらったら実はできた、といったケースもありました。コミュニケーションのルールを決めたことは良かったと思います。

SNSと対話集会―市民への発信

市長の場合は、ご自身の考えを市民に聞いてもらう必要がありますよね。その点に関して何か努力されていることはありますか。

とにかく発信を続けることです。SNSはもちろん、地域のお祭りや高齢者の方々の文化発表会にも顔を出しています。イベントに行くと必ず挨拶をさせてもらえるので、そこで市が今取り組んでいることをお伝えしています。

もう一つ力を入れているのが、対話集会です。市民の方々30人ほどと私が車座になって対話をする会で、延べ200人ほどが参加してくださりました。市民の生の声を直接聞ける機会は、とても貴重です。

SNSの効果はどうですか。

街中でもよく「インスタをフォローしています!」と声をかけていただきます。イベント情報を発信するとリアルの集客につながることも多く、発信が届いている感覚はありますね。総フォロワー数が10万人を超えているということは、市外の人が多く見てくださっているということでもあります。でも、私はそれも大事かなと思うようになりました。

それは、市外の方から市民に対して情報が伝わるからです。「芦屋に住んでたよね。芦屋って最近こんなことやってるらしいね。どんな感じ?」と市外の友人から聞かれた、という声をよく聞きます。口コミに芦屋市の取り組みが登場することが、市民への広報を考えても意外と大事なんじゃないかと思っているんです。芦屋のことを市外の方も知っている、というのはシビックプライド(郷土愛)にもつながりますしね。

SNSは若者に向けてという目的があるのでしょうか。

もちろん若い方が多く見てくださっていますが、年輩の方も見てくださっている方が多いんです。災害時には情報をこまめに出すようにしているのも、ライフラインの一つとして見る方もいらっしゃるかなと思っているからです。もちろん媒体によって、インスタはちょっと年齢層が低めかなとか、フェイスブックは高めかなと思うことはありますが。

市長は、周りのほぼ全ての人が自分より年長ではないかと思うんですが、若さが武器になるときもあるだろうけれども、若いからマイナスになっているとか、厳しいことになっているかなと感じることはありますか。

うまくいかないときは、若いからか、行政経験がないからか、単なる実力不足か、様々な理由がありうると思います。自分を省みながら、一つずつマイナスを消していくにはどうしたらいいか、考える日々です。この業界のしきたりを知らないので、あいつはなってないなと思われている可能性はあるかもしれません。例えば、議会中に「市のバッジはつけてないの?」と市民から問合せが来たので、「市長、つけてください」と言われたこともありましたね。

重点を置く教育について

その予算で、目玉になりそうなところってあるんですか。

教育ですね。公立学校の教育改革を一丁目一番地に据えています。

芦屋市の一番大きな課題は、少子高齢化なんです。もちろん様々な課題はありますが、大きな法人や工場がほとんどなく、「人」で成り立っている芦屋の場合、少子高齢化が中長期的に見て最も大きなリスクになる。現状、近隣市と比べると高齢化率は一番高くて、出生率は一番低い状況です。恐らく芦屋市にはいろんなイメージがあると思うんですが、どうしても子育て後に住む場所、終の棲家というイメージもあるんではないかと。

そこを変えていくには、私たちは教育なんじゃないかなと思っています。経済的支援ももちろん大事ですが、私たちは質にこだわりたいなと思っています。

ちょうどの学び

教育の質っていうのは、弁護士会でもいろいろ話はします。ただ、我々はどちらかというと、基本的人権の擁護というところから物を見てしまうんで、幅広い人の教育の質というところを考えるんです。一方で、市長のおっしゃっている教育の質というのは、教育水準の高さを求めてるという意味なのでしょうか。教育の質について、具体的なお考えを教えていただきたいです。

私たちが目指しているのは、「ちょうどの学び」です。大切なのは、学力を上げることではなく、子どもたち一人ひとりに合った学びの環境を提供することです。これがよく誤解される。一人ひとりの学びへのモチベーションが上がれば、学力は後からついてきます。

公立の学校という多様な子どもたちが集まる場だからこそできるのは、一人ひとりの違いを認め合い、学び合うことなんです。そのベースに、自分にちょうどあった学びの環境があるはずだと考えています。学びの権利保障の話とも繋がりますよね。

私が学校教育の中で最も大きな課題だと思っているのが、なぜこの分野を勉強するか、みんな理解も納得もしていないことです。「なんで古文をやるのかな」とか、「因数分解をやっても人生で使わないぞ」とか、誰しも思ったことがありますよね。今のところ、その答えは「テストに出るから」とか、「いい学校に合格するため」になってしまっています。でも、いい高校、いい大学に行けば、いい就職先があって、一生幸せ、というモデルはもう瓦解してしまっていると思うんです。だからこそ、一人ひとりの学びへのモチベーションを上げるには、自分の好きなことや興味関心、将来の夢といった「自分」と目の前の学びがどのように繋がっているか、いかに伝えられるかが重要なんじゃないかと考えています。

目の前の学びと自分の興味や夢との結びつけのためには、具体的にどのようなことが必要ですか。

例えば、サッカーが好きな子がいるとします。数学なんて意味ないよって言うけれど、Jリーグの強いチームは、統計の分析に力を入れているわけです。戦術分析には、数学は必須です。化学反応とか関係ないわ、って言う人もいます。でも、筋肉の疲労回復のメカニズムは、タンパク質の合成が関係しますよね。じゃあ、どういうものを食べたら自分の筋肉が回復して、サッカーの試合で活躍できるか、といった話にも繋がるはずです。こじつけのように聞こえるかもしれませんが(笑)。でも、こういう繋がりを知っているかどうかによって、学びへの姿勢は大きく変わるんじゃないかと思っています。

授業の一部にそれを入れていくわけですか。

将来的にはできたら良いなと思っています。もっとも、授業の中に入れるとなると、まだまだハードルがあります。すぐには難しいので、まずは環境づくりに取り組みます。環境づくりには、二本の柱があると思っています。一つがAIなどの新しい技術の導入、そしてもう一つが先生の働き方改革ですね。

新しい技術は、先程のような学びへの意欲を高めるような取り組みにも使えると思いますし、先生の負担減にも使えるでしょう。

その意味で、より本質的なのは働き方改革です。学校の先生はとにかく忙しすぎるんです。昼ご飯すらゆっくり食べられない状態にある先生に、まず心のゆとりを届けなければなりません。その意味で、まずは先生が先生にしかできない仕事に集中できる環境をつくり、先生が子どもたちに向き合う時間を確保したい。新しい技術を使うのも、子どもたちに届けるのも、結局先生です。

もちろん教育委員会が様々な取り組みを考えてくれていますが、先生が思う存分活躍できる環境づくりが私の仕事かなと思っています。

インクルーシブ教育(国籍や人種、言語、性差、経済状況、宗教、障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもが共に学び合う教育)について

市長は、いわゆるインクルーシブ教育に重点を置かれています。しかし、芦屋市は、富裕層の方も多く、教育水準にこだわるご家庭も多いかと思います。インクルーシブ教育の推進が反発を生むことはないのでしょうか。

そこは矛盾しないと思っています。なぜ、そういう議論が生まれるかというと、ゆっくり学ぶ人がいれば、その人に合わせないといけなくなるけれど、それは困る、という話なんだと思います。でもこれは、あくまで全員が全く同じことを同じペースで学ぶ、という前提のもとの話ですよね。

私たちが推進しているのは、そうではありません。一人ひとりに合った「ちょうどの学び」の中でのインクルーシブ教育です。障がいのある子もない子も、その子に合った学びの環境づくりを目指しているので、大きな反発を生むことはないと思います。

そもそも、芦屋市では古くからインクルーシブ教育を大切にしてきたので、私が始めたというよりも、芦屋市に根付いた文化でもあるんです。

現状のインクルーシブ教育の推進の具合はいかがですか。

目指す方向性自体は受け入れられていると感じます。ただ、現状が理想形かというとまだまだです。インクルーシブ教育の実態が、ただ一緒にいるだけになってしまっている面もまだありますし、支援する先生の手も足りないことも含めて課題はたくさんあります。本来目指すべきインクルーシブ教育は、お互いがともに学び合うことで、学びの質が上がるということなので、それまでにはまだまだクリアすべき課題が多くあります。

教育に関心をもったきっかけ、教育への熱意

市長の教育に対するお考えは、立候補された時に考えたのか、昔から徐々にそういう思いが自分の中にあったのか、どちらなんでしょうか。

立候補する前からです。教育こそが日本の未来にとって最も重要だとずっと考えていました。特に、公立の教育をよくすることが、まちの未来を左右するなと。

私は、小学校は公立に通っていました。中高が灘で、大学は東大を経て、ハーバードに行き、様々な教育を受けてきましたが、その中で私が一番感謝しているのは公立小学校なんです。異なる背景を持った同級生の中で学んだ6年間が、私にとって基盤になっているなと思うことが多々あります。秘密基地を作ったり、球技大会や合唱祭に必死に取り組んだり、児童会活動をしたりと充実した6年間でした。生まれ変わっても公立の小学校に行きたいなと思うくらい、地元の小学校が好きなんです。

その後、大学時代には7年間、教育系のNPOの代表を務めていました。公立学校に対する思いから、文科省をはじめ県市の教育委員会と一緒に、主に地方の公立校を訪問し、キャリア学習や留学支援をしていたんです。北海道から沖縄まで、離島を含めて夏冬の休みの度に回っていました。

その経験の中で、公立の学校が元気かどうか、その地域の子どもたちに未来を見せられるか、夢を与えられるかどうかって、その地域の未来に直結するなと、本当に大事だなと思ったんです。公立の学校は誰しもに開かれていますから。それが、今の私の考え方の原点ですね。

ということは、NPO法人をされていたのはかなりお若い時ですか。

代表理事は19歳のときからです。文科省や教育委員会と活動し、ときには県立学校のカリキュラムづくりをお手伝いする中で、自分の経験の相対化はある程度できたのかなと思います。

教育については、髙島市長っていうすごい方がおっしゃるからこそ、市民がついて行こうっていう面もあるだろうし、逆に、髙島市長ほど賢い方がおっしゃるとちょっとついていけないよっていう意見も、失礼かも知れませんが、あるかもしれないんですけれども、その辺の調整とか意見の吸い上げっていうのは、どのようにされておられるんでしょうか。

それはすごく大事な視点です。私も、自分の人生しか生きていないので、自分が受けてきた教育しか経験していないわけなんです。その点で言うと、やはり絶えず現場の子どもたちの声、現場の先生の声を聞き続けることが大切だと思っています。これからも、教育委員会と連携しながら、現場の声を拾い上げ続けていきたいと考えています。

市政のIT・オンライン化について

裁判では、ウェブ裁判が漸く普及してきました。芦屋市の市政では、オンライン化は進んでいますか。

そうですね。行政の仕事の仕組み自体は、デジタル化が進んできたと思います。特に、私の就任がコロナの終わりの頃だったこともあり、リモートワークの環境はだいぶ整備されていました。本当にありがたいです。

家からでも業務用のパソコンにアクセスできますし、電子決裁も導入されています。これがもし紙だったらと思うと、恐怖ですね(笑)。毎日はんこを押し続ける仕事になっていたと思うので。そういう意味では、恵まれた時代に仕事ができているなと思います。

市民からの申請もできるだけオンライン化を検討されているということですね。

できるだけオンライン化しようとしているんですが、まだまだです。やはり役所での手続きの方が安心感があるのでしょうか。

オンライン化の話ではないですが、例えば、証明書の発行はマイナンバーカードを用いてコンビニでできるものもありますよね。けれど、コンビニで証明書を発行しているのは4分の1程度なんです。

役所で発行した方が手数料も高いし、待ち時間もかかります。でも役所での発行を選ばれる。マイナンバーカードに対する信頼性の問題なのかなと思いつつも、そもそもコンビニで発行できることを知らない方も多いんです。窓口で案内すると驚かれる方もいらっしゃるので、発信を強めていきたいと考えています。

デジタル化は、本来市民も役所も便利になるためのものです。中には、大きく改善した例もあります。私の就任前ですが、学童の申し込みは完全にデジタル化しました。今まではすべての保護者の方に紙を配っていたんですが、敢えて配付をやめて、紙で提出したい人はご連絡くださいという形にしたら、すべての申込みがオンラインになったんです。子育て世代だからこそ、オンラインの環境が充実していたのだと思うのですが、思い切ってやってよかったなと思います。市民も役所も負担が減り、効率化に繋がる取り組みはこれからも進めていきたいですね。

オンラインやITが得意ではない方への働きかけについてはどうされているんですか。

まずは、一度やってみませんか、と伝えることですね。スマホの普及率は高齢の方でも結構高い。となると、一度やっていただければ、その便利さを実感していただけるのではないかと思っています。芦屋市でもキャッシュレスポイントの還元事業を行っているのですが、その際には市役所内に使い方を教えるコーナーを設けています。

さらに言うと、市役所だけでなく、地域コミュニティ内で教え合う環境ができればとも思っているんです。例えば、主に高校生中心に、スマホカフェという活動があります。地元の甲南高校という男子校の生徒のみなさんが、自治会の老人会で、スマホの使い方を教える会を開催してくださっているんです。私も一度お邪魔したのですが、すごく面白い。受講生の高齢者の方々が、年賀状をパソコンで作りたい、LINEの使い方を教えてほしい、Amazonで買い物がしたいとご自身でテーマを持ってこられるんです。そのリクエストに対して、生徒が一対一で丁寧に応える。とても良い関係性ですよね。このような取り組みを市も応援していきたいと考えています。

芦屋市内の自治会・コミュニティの繋がり

地元の高校生が街のために動くという話でしたが、芦屋市は、自治会やコミュニティの繋がりは強いのですか。

昔ながらの街もあるので、自治会や地域コミュニティの繋がりが強い地域もありますが、すべての市民が繋がっているとは言い難い状況です。市役所の職員が何でも担えればよいですが、人が全く足りません。今後人口減少がますます進む中で、市役所がすべてを担うのは正直難しい状況です。その中で、地域コミュニティの役割はますます高まっています。

特に、災害の発生時には地域コミュニティの強さが鍵になります。能登半島地震の例を引くまでもなく、災害時には市役所と市民が一丸となって立ち向かわなければなりません。職員も同じく被災する中で、いかに市民の命と財産を守るかということを考えれば、平時からの市民と一体となった備えが何より大切です。だからこそ、自治会や地域コミュニティをどう盛り上げていくかが重要だと思うんです。

その中で課題は自治会の高齢化ですが、いかに若い世代にバトンタッチするモデルをつくれるかが大事だと考えています。実はこの4月から、ある自治会で自治会長が80代の方から40代の女性に代わるんです。この代替わりを決断した先代の自治会長は本当に素晴らしい方です。自治会長は地域のドンみたいな人がずっと続ける、というイメージではなく、若い世代が担ったり、新しい人に代わったりすることで、より多くの人が入りやすくなったり、ちょっとした関わりしろを見つけて関わってくださったりすると思うんです。フルコミットは難しくても、月1回の公園清掃なら手伝えるよとか、お祭りのこの時間だけなら行ったるわ、みたいな人が増えていくと、地域コミュニティは強くなっていくんじゃないかなと思います。

他方で、芦屋市は、マンションが増えてきているのもあって、自治会やコミュニティの強さがだんだんと薄まっているような側面はないのですか。

おっしゃるとおりです。芦屋市は戸建てのイメージがあると思います。でも、実は集合住宅の比率は約3分の2で、分譲マンションの割合だけで見ると全国4位なんです。芦屋市の都市政策を考えるうえでは、この特徴を活かさなければならない。自治会に入ってくれないという課題もありますが、最も大きな課題は高齢化です。みんな同じタイミングで分譲マンションを購入され、住み替えも少ないので、全員同じタイミングで高齢化するんです。終の棲家で芦屋を選ばれた方も多いからですね。マンション管理に関する条例をつくりながら、てこ入れをしていきたいと思っています。

自治会と別に、コミュニティをNPOでやっていくまちづくりNPO的なものが結構増えてきていると思うんですけれども、芦屋市としてNPO支援などはされているんですか。

芦屋市は、NPOや市民活動が非常に盛んな土地柄です。あしや市民活動センターを通じて、積極的に応援しています。先ほど挙げた対話集会でも、私が一番うれしかったのが、参加者同士の繋がりが生まれたことでした。集会が終わった後、参加者同士でこういうのをやろうよという話合いが生まれて、連絡先を交換して帰っていく市民が、何組もいらしたんです。芦屋市は様々なご経験、ご知見をお持ちの方が多いのが強みです。そんな市民の方々の力をどう引き出すかも、市政運営のポイントかなと思っています。

芦屋のブランドイメージについて

何度か出てきていますが、芦屋市は、富裕層の街というイメージがあると思いますが、どのようにそのブランドイメージを考えていらっしゃいますか。

イメージ自体を敢えて変える必要はないと思います。というより、「芦屋といえばこうだ」という共通認識があること自体が価値です。東京の方が、関西の一市、しかも人口10万人未満の市の名前を知っていることは珍しいですよね。この価値を敢えて上書きしようとは思っていません。

実は、芦屋市は日本唯一の「国際文化住宅都市」なんです。芦屋市の名前がついた「芦屋国際文化住宅都市建設法」という法律が昭和26年に公布されているのですが、これは住民投票によって芦屋市民が選び取った道です。芦屋市民が、未来を見据えて大きな決断をしたからこそ、今の芦屋市がある。法律にも「芦屋市が国際文化の立場から見て恵まれた環境にあり、且つ、住宅都市としてすぐれた立地条件を有している」と書かれているくらい、日本でも恵まれた環境を有しているのが芦屋市ということですね。今でも「住宅」都市であることは変わりませんが、これからはもう少し「国際」「文化」を大切にしていきたいと考えています。

他方で、富裕感を押し出し過ぎたら、人口が増えなくなる可能性もあるかと思いますし、みんなが住みやすい街のイメージづくりも必要なんじゃないかという意見もあるかもしれませんが、それはいかがですか。

やみくもに人口増だけを目指していけばいいかというと、少し違う気もしています。芦屋のブランドイメージがあるからこそ、芦屋市を選び、住み続けてくださる方もいる。治安の良さもそうですし、街並みの美しさもそうです。

例えば、芦屋市には日本一厳しいとも言われる屋外広告物条例があります。大きな看板や、色彩が鮮やかすぎる看板は掲げられないというルールになっていますが、この条例によって落ち着いた景観が守られている部分もあるんです。そうやって先達が積み重ねてきた努力とブランドイメージをないがしろにするのは本末転倒です。

人口は増えてほしいという思いもありますが、他の地域と人の取り合いをするのは本意ではないですし、芦屋にしかできない魅力発信、戦い方をすべきだと考えています。

アメリカでの経験、アメリカで培った視座から見た日本の課題

市長は、ハーバードを出られて、2022年5月までアメリカにおられたということですが、アメリカでずっと生活されていて頭の中に入れたことがある中で、日本で市政をやるときに、ギャップを感じることはありませんか。

違いは感じます。でも、どちらが良い、悪いではなくて、文化が違うという感じですね。

その中でも、日本に帰ってきて感じたギャップの一つは、DEI(ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(平等性)、インクルージョン(包括性))に関する議論です。先ほどのインクルーシブ教育の話もそうですが、まだまだ日本は議論が進んでいないところもありますよね。私が住んでいたのが、アメリカ東海岸のボストンだったからかもしれませんが。

アメリカは、表面的にはすごく進んでいるように見えて、本質的な部分では、例えば、人種差別撤廃の動きが進んでいるのかというと、そうではないのかなと思ったりすることもあります。建前と本音の部分が別のところもあるのかなと思うんですけれども、その辺はどうですか。

確かにアメリカでも地域によるとは思いますが、議論が生まれていることは良いことだと思います。阪神間は比較的議論が進んでいる分野もあります。例えば、阪神の7市1町で始まったパートナーシップ宣誓制度が、今では近隣の10市1町に広がっています。

行政は国、都道府県、市町村が役割分担で動いていますが、道州制がいいとか、いろんな意見があるじゃないですか。この1年市長を経験されて、アメリカでの体験も踏まえて、この国、都道府県、市町村の3つの仕組みなどについて何かご意見はありますか。

課題に感じているのは、国と市の距離が本当に遠いことです。例えば、国から下りてくる通知は、まず県に下りて、時間が経ってから市に届きます。必ず県を経由するので市に情報が来るのが遅いんですが、国の通知は公開されているので、検索すればネットですぐ見られるんです。ここはもう少しなんとかなりませんか、と国には伝えています。

同時に、市の現状は国に伝わりづらい。これは芦屋市の現状が伝わりづらい、という話ではなくて、地方自治体の現状が国には伝わりきっていないなと感じています。例えば、コロナ禍で多く支給された給付金は、事務作業をすべて市の職員が担っています。予算をつけていただいているので、我々も努力してできるだけ早めに市民の皆さまにお届けしたいとは思っているんですが、普段の仕事に加えての仕事になるので、なかなか大変です。これも国の人に会うタイミングで逐一伝えてはいますが、もう少し国と市の相互理解が進むと良いなと思っています。

若者に向けたメッセージ

市長も若手の世代に入ると思います。若手の弁護士も含め、若い世代の人に対して、これから長い人生を歩んでいくに当たって、何かメッセージ的なものがもしあったら教えてください。

偉そうに言えることは一つもありませんが、市の仕事は本当に面白いということは改めて伝えたいです。将来の夢で思い浮かぶテーマのほとんどが市役所の仕事と繋がっているんです。

例えば、医療なら、市民病院があります。スポーツなら、スポーツを推進する課がありますし、文化なら文化を推進する課がある。公園はもちろん、運動場や体育館もあれば、美術博物館も図書館も市は持っています。そして、忘れてはならないのが人権や福祉。弱い人の立場に立ち、正義を実現する仕事は、弁護士の先生にも通ずるところがあるかもしれませんね。他にも商工業、農業、環境、さらに交通インフラ、水道、消防まで、多種多様な分野を担えるのが市の仕事の面白さです。何と言っても、学校もありますし。

他方で、市役所はまちづくりのプロでなければならないので、専門性を持つことが大切です。様々な分野に広く精通している中でも、法律や条例の取り扱いをはじめとする法務の基盤は何より大切です。その点では、法的な感覚や知見を持っている方々には、ぜひ市役所の仕事に挑戦していただきたいですね。法学部で学んで、法に関する「OS」を持っている方で、弁護士や裁判官、検察官ではない仕事に就きたいなと思っている方々もいらっしゃるという話を聞くので、ぜひ市役所の仕事にも目を向けていただけたら嬉しいです。

市政とあまり関係ないんですが、この前、台湾の総統選挙があって、投票率が72%でした。若者の民主主義の要求がすごかったです。もちろん、もともと台湾と日本では、バックグラウンドが違うというのはあると思いますが、日本では若者の選挙への関心の低さもあり、投票率が72%までは行かないんじゃないかと思うんです。市長も、選挙を乗り越えられた身として、若者の民主主義への関心を高めるにはどういうふうなお考えがありますか。

選挙に行ったほうがいいよ、選挙に行くべきだというキャンペーンはあまり意味がないと思っています。

だって、選挙に行きたいと思うわけがないんです。日曜日の真っ昼間に、行ったことのない集会所に行って、知らない人の名前を書いて帰る。合理的な判断だとなかなか行こうとならないですよね。

だからこそ、成功体験をどうつくるかだと思っているんです。自分で声を上げたり、自分で提案したりしたことが社会を変えたという成功体験があって初めて、選挙に行く意味があると実感していただけると思うんです。

私は、その一つが校則を変えることだと思っています。芦屋市内の中学校では、「子どもたち中心の学校づくり」を掲げ、校則を含めたルールをどうやって対話で作っていくか、変えていくかといったプロジェクトを行っています。

生徒で校則をつくるんですか。

そうなんです。2023年の7月にすべての市立中学校を回って、生徒会をはじめとする生徒代表の子たちと対話しました。そこで、ある中学生が20項目の校則改正案を持ってきてくれたんです。髪型について、セーターの色について……様々な校則について、おかしいと思うんです、と。市長なんとかなりませんか、と。

生徒の主張は、もっともなんです。良いところをついている。でも、私が受け取って、教育委員会に「これはおかしいよね、直したら?」と言って変えてしまったら、全く意味がない。だから、代わりに作戦会議をしたんです。中学校の先生には外に出ていただいて、生徒会のメンバーと私で車座になって、どの先生が鍵になりそうか、反対理由は何かといった話を聞き、どうすれば先生に納得してもらえそうか一緒に考えました。私も答えを持っているわけではないですから、自分の生徒会長時代のことを思い出しながら(笑)。

その3ヵ月後。また学校を訪問して同じメンバーと会ったら、なんと校則が3つ変わりましたという話をしてくれたんです。これこそ成功体験なんじゃないかなと。自分たちで自分たちの社会のルールは変えられるんだという経験を一度したら、選挙に対する見方も変わりますよね。

法律も同じだと思うんです。法律は守るものというイメージがあるけれど、守るものでもあり、つくるものでもある。中学校の校則改正が、政治や法律に向き合うきっかけになると本当に嬉しいです。

すばらしいですね。

これからの社会、若い世代、未来世代が一番長く生きていくわけです。きっと私よりも。だからこそ、いかに未来世代の声を政策に反映させるかが問われていると思うんです。なのに、関心が下がっていると言われる状況です。成功体験を意識的につくることで、少しでも社会参画に関心を抱いてもらえる環境をつくっていきたいです。何より、社会と関わること、社会を良くすることは面白いですからね。

弁護士とのかかわり

さて、今、市政運営をしていく上で、弁護士の活用とかは考えていらっしゃいますか。また、弁護士との付き合いはありますか。

市には顧問弁護士の先生がいらっしゃいますし、県の弁護士会の皆さまにもお世話になっています。迷ったときに、専門性を持った観点で助言をいただけるのは本当にありがたいです。最近だと、いじめ問題の対策審議会、第三者委員会でもお世話になりました。教育委員のお一人も弁護士の先生です。教育分野では特にお世話になっています。

学校の先生も日々子どもたちや保護者の方々と向き合うときに、少し不安なこともあるんです。その不安な気持ちに寄り添う意味でも、気軽に相談できる存在がいるのは心強いですね。

これからも、弁護士の先生方とも力を合わせながら、世界で一番住み続けたい街・芦屋を創り上げていきたいです。ご指導のほど、どうぞよろしくお願いいたします!

本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

2024年(令和6年)1月30日(火)

インタビュアー:三木秀夫
森岡利浩
山岸正和
豊島健司

ページトップへ
ページトップへ