弁護士会から

広報誌

オピニオンスライス

日本電信電話株式会社
代表取締役会長

澤田純さん

SAWADA, Jun

日本電信電話株式会社(NTT)は、NTTグループの持株会社であり、資本金9,380億円、連結ベースの従業員数は33万8,467名である(2024年3月31日現在。NTTのHPより)。
社会のDX化が進む中、かつて電電公社と呼ばれた巨人はどう変革を遂げ、どこへ向かおうとしているのか。経団連副会長として財界のキーマンを務める澤田純会長にお話を伺った(肩書はインタビュー当時)。

通信の世界の変革

通信の世界はだいぶ変わったようですね。

歴史的に、通信は独特の技術体系を持ち、各国でかなり厳しく法規制されていましたが、ほとんどの先進国で自由化が進み、日本のNTT法が残っているのが珍しい状況となりました。

一番変わったのはコンピューター技術であり、インターネットです。NTTは、日本を席巻した携帯電話からインターネットに接続できるサービス「iモード」で世界に進出しようとしました。これを参考にしたと言われるAppleのiPhoneも「phone」という名前を使っていますが、本質的にはコンピューターです。

半導体もスケールメリット(規模の経済)で動く世界になりました。2000年頃には日本の電話交換機の半導体をつくってくれるメーカーがなくなり、NTTは20年かけて交換機をインターネット形式に変えてきました。

通信の世界も、世界レベルで力のある会社でなければ適応できないスケールメリットの勝負となっていく中、日系機械メーカーはそこへ追従できず、ノキア、エリクソン、ファーウェイの3社がシェアを大きく占める状況になりつつありました。NTTはこれに対抗し、Open Radio Access Network(O-RAN)という概念の下、アンテナ、中央装置、分散装置、大きく3つのセグメントに分け、いろいろなメーカーが参入できるようにしました。アメリカのAT&Tがこの方式の採用を決め、エリクソンと富士通が連携し、サーバーはDELL、ソフトウェアはMicrosoftという組み合わせで提供する世界に変わってきています。

次に来るのがAIです。通信会社は通信機器の運用主体ですが、通信機器のソフトウェア化が進んでおり、AmazonやMicrosoftがクラウドモデルで通信業界に参入してきています。そこにAIも入ってきます。AIはクラウドサービスを通じて、通信会社を介さずコンシューマーに直接入っていくので、サービスが本質的に大きく変わります。最終的には哲学的な部分、人間の立ち位置にまで影響を及ぼす可能性があります。

ファーウェイ、ノキア、エリクソンの高いシェアも崩れていくということでしょうか。

まず、経済安全保障でファーウェイを排除する動きが強まりました。次に通信事業者が特定ベンダーによるコントロールを受けるのでなく、マルチベンダー化を進めたいという動きが強まりました。

それでも、放っておけばコスト面から垂直統合になりますが、自国ファーストが出てくると、分断型モデルになっていきます。この状況にO-RANの枠組みがフィットします。

機器メーカーが経済的な価値を手中に収めるためには、独占が一番手っ取り早く、得る富も大きいということですか。

ノウハウが不足している開発途上国や専制主義的な政権下では、独占型の方が有利な面があると認識されているのだと思います。そのため、ファーウェイはアフリカ等の国々に強いのです。

各国の事情もあるのでしょうね。そういった中で、このO-RANは今後の世界的な枠組みとして採用されていくのでしょうか。

2018年にO-RAN Allianceが設立し、現在約300社が加入しています。一つのデファクトスタンダードをつくる動きがベースとなっており、すでにO-RAN Alliance内に留まらず通信の世界で共通認識となってきています。

通信とGAFAM

GAFAMはこの流れとは別なのでしょうか。

別の流れです。GAFAMのうち、Google、Facebook(現Meta)、Amazonの基本的な生業はインターネットサービスです。

Appleは垂直統合型、特に端末に注力したメーカーです。通常はオープンモデルで、MicrosoftのWindowsというソフトウェアがありますが、Windowsは互換性が高くいろいろな機器で使えるため普及しています。これに対し、AppleはAppleの機器のみで使えるOSにも関わらず、意外と使われています。特に日本は新規販売の5割がAppleという稀有な国で、アメリカよりシェアが高く、とても不思議なモデルです。インターネットというオープンな環境において、どのようにデファクトを確立するかが重要で、Appleはハードウェアとソフトウェアを一体化し、自社内で統制された環境をつくり出します。

一方Apple以外、Google、Facebook(現Meta)、Amazonともにソフトウェアサービスの会社です。このうち、Amazonはクラウドという新たなインフラの提供を開始し、Microsoft等もそれに追従しました。つまり、サービスとインフラを持っています。そのインフラが通信側にも入ってきているという流れです。

Googleは、データセンタや海底ケーブルといった通信事業者のインフラも持っています。

GAFAMは我々にとって、競争相手であり、NTTのデータセンタを世界各国でお使いいただいている顧客でもある、そういう相互関係にあります。

通話収入は15%

NTTは、通信事業のソフトとハードの両方を押さえようとされているのか、それとも他社と手を組んで事業を進めていくのか、いずれですか。

進め方は後者ですが、組んでいただくにもNTTとしての強みは必要です。現在、我々の年間13兆円程の収入のうち、従来の通話の収入は携帯電話を含めて15%程しかありません。約30%がパケット通信と呼ばれる、映像や検索のための通信です。IP電話やLINE通話もここに含まれます。残りの30%がシステムインテグレーション*1、そのほか、不動産や電力事業等も手掛けています。携帯電話を含め従来の通話による収入が減少していく中、自分たちに能力がある分野は参入していく、能力がない分野はパートナーと組んでいく、というオープンモデルを展開しています。

現在、収入の20%弱が海外ビジネスの収入ですが、ITサービスが主体となっています。

もともとは日本電信電話公社でしたね。

電電公社です。1985年に株式会社となり、1999年に分割されましたが、今でも正式名称は日本電信電話株式会社で、NTTは通称です。

パケット通信や、システムインテグレーション等へ軸足を移す流れはいつ頃お考えになったのですか。

2015~2016年頃は、通話収入の減少に対し、海外ビジネスをどう広げていくかということが大きな議論でした。

ところが、そのうちにIoTや車の自動運転、スマートシティー、AIと、通信の需要はどんどん増えました。ただそれは、電話のような伝統的な通信ではなく、モノ対人、モノ対モノをつなぐパケット通信です。また、求められるものは全体のソリューションであり、通信はソリューションの一部として、より使いやすいものが必要になります。そこでIOWNを構想しました。

※1 システムインテグレーション(SI):顧客の業務内容における課題分析のコンサルティングから、システムの企画・立案、プログラムの開発、ハードウェアの選定・導入、改正したシステムの保守・運営までを総合的に行う事業。

通信を端から端まで
光のままで

IOWNとは。

IOWNとは、Innovative Optical and Wireless Networkの略で、新しいインフラ構想です。キーワードは「電気から光」です。

今までの通信でも光ファイバーを導入していますが、いろいろなところで電気に変換するたびに遅延が発生します。そこで2023年に提供を開始したのが、端から端まで全て光のままで伝送する通信サービスです(オールフォトニクスネットワーク)。東京―大阪間でも4ミリ秒程度の遅延しかないので、人間は感覚的にその遅れが認識できません。東京と大阪くらい離れていても、こうして目の前の相手と話しているのと変わらないレベルの会話を実現できます。

IOWNの実現に向け具体的にはどういった取り組みになるのでしょうか。

光ファイバーの能力向上に加え、光電融合の最初の技術として、機器内の幾つかの半導体を組み込んだボード間を、従来の電気ではなく光でつなぎます。この技術の実装を2025年関西・大阪万博で発表する予定です。 次に、4年後の2028年度には、ボードの中の半導体と半導体の電気回路に光素材を入れ、その次の2032年度モデルは、半導体の中、シリコン上に光素材で回路を構成します。これにより、電力効率100倍を実現できます。 電子が動くと熱を代替として放出しますが、光であればそれが大幅に減り、冷やさなくて良いという相乗効果で処理能力の向上に役立ちます。 AIの普及等で電力使用量はさらに増加しますが、その状況を変えることになります。 2019年にIOWN構想を最初にインテルへ提案し賛同を得ました。その後、ソニーにも参画いただきました。今はブロードコムやクアルコム等の半導体メーカーとも一緒に取り組んでいます。サーバーメーカーやスイッチメーカーも、シリコンフォトニクスというテクノロジーを自分のプロダクトの中に入れていくことに高い関心を持っています。 今後、普及に向けては光電融合デバイスの量産が必要になります。NTTは通信デバイスの製造ラインを持っているので、これを拡張するのか、パートナーにつくってもらうのかを含め、これから意思決定をしていきます。 なぜ、IOWN構想では、これ程高性能のネットワークインフラが必要かというと、デジタルツイン*2の時代が来るからです。

※2 デジタルツイン:現実世界と対になるふたご(ツイン)をデジタル空間上に構築し、モニタリングやシミュレーションを可能とする仕組み。

画像等の表示に遅れがなく、実際に遠隔で手術ができるというトライアルをされたそうですね。

hinotoriという手術支援ロボットで、新たな光通信サービスを利用した遠隔手術が技術的にはできる段階になりました。医療機器は法規制の問題があるので、実施はこれからです。

経団連の副会長でもあるので、リモートや自動化でできるものを増やし、それらDXのソリューションを海外に展開していくべきだと考えています。GAFAMは個人をターゲットにしていますが、我々はBtoBで次のソリューションを用意していくべきだと考えています。例えば我々の開発したtsuzumiという生成AIはビジネスユーザー向けで、業界向けに特化し、カスタマイズすることが可能です。

法曹とAI

AIは、我々法曹から仕事を奪うことになるのですか。

法曹界も、弁護士の先生方ご自身がAIを導入した上で、ハイタッチな「人のサービス」を加えていくと良いのではないでしょうか。事務所ごとにそういったものを導入される方が増えていくのではないかと思います。一足飛びに他業界の人がその業界のノウハウをAIでカバーすることは現実的には難しく、各業界のプロがAIを使って自分の業務を変えていく方が受容性も高まります。それぞれの業界の方と組んでAIをつくり、それぞれがネットに接続され相互に勉強をする、嘘を言うAIに対し別のAIが違うと牽制する、そのようなAI群をインフラとして将来つくることができるのではないかというのが、我々のイメージです。

AIと真偽

今の話を詰めていくと、正しいとか間違っているということが、どの次元で正しく、どの次元で間違っているのか分からなくなってきます。

それを適切に調整できる専門AIが必要です。例えば河野太郎デジタル大臣は、世の中で流通する情報について、誰が何時つくったかをフットプリントに入れるべきだとおっしゃっています。しかし、それでも真贋性までは分かりません。日本法では、どう慣例的に解釈されているかという基本的な部分を、AIがサポートするということは可能だと思います。また、その解釈が社会的にコンセンサスを得られ、構造的になっているかをAIが評価することも考えられます。

世の中で流通している若者の言葉や規範、感性を是とするのか否とするのか、行司できるAIも必要になってくるでしょう。AI同士の連携がそれぞれの分野における真贋性や、御墨付きを与えていくのではないでしょうか。そこまでいかないと、AIの利用はやはりリスクがあると思います。

また、今は一国の中での議論ですが、中国の生成AIは、歴史認識をはじめ西洋のAIとは異なってくるので、それに対して世界がどうリンクし許容していくのか、並立せざるを得ないという認識です。融合したり調整したりバランスを取ったりではなく、また、中庸といった曖昧な議論でもなく、AもBもある状態です。好きか嫌いかではなく、正か悪かでもなく、正しいか正しくないかでもない。まず「ある」という世界を起点に置かないといけません。

今までに直面していないような知、あるいはずっと前から普遍的に存在している知恵、そこと向き合っていくような社会というか存在がAIに求められるということですか。

今のAIはまだまだ能力も低く、ツールです。入れたもの以外は出てきません。ただ、AIにプログラムをつくらせることは始まっています。AIがAIを規定していくことになりますので、いろいろな規範をうまく投入していかないと、偏った構造になりかねません。特に法律の世界では、法治国家を守らせながら、グレーな部分をどう捉えるのか。また、過去の結果をどう利用するのか。そのときの知恵は新しい知恵なのか昔の知恵なのか。そういうものを重畳させ、納得できる方が多くなるようなモデルをつくっていく必要があります。

AIを友達化できるか

『パラコンシステント・ワールド 次世代通信IOWNと描く、生命とITの〈あいだ〉』というご著書がありますが、パラコンシステントについてお話しいただけますか。

哲学的に、AとBの間で、いずれを取るかという構造がジレンマで、3つ目がトリレンマです。例えばインドですが、彼らはAにもBにもつかない、Cとして独立でグローバルサウスの盟主になりたいと考えているため、あえて調整を行いません。4つ目のテトラレンマはいろいろなパターンがありますが、その中の一つがパラコンシステントで、AでもBでも良いのではないかという概念です。

京都哲学研究所をつくり、I(私)ではなくてweだという概念と、パラコンシステントを提唱しています。多くの欧米の研究者が同意してくれており、来年京都会議を開くことになりました。

自律したI(私)が連携して真ん中が中空であるのがweである。AIもそうです。真ん中を中空にする構造でAIが連携することによってバランスを保つ、同時並立する、誰かが中心に存在し俺がやるんだというモデルを許さないという概念です。京都哲学研究所へはバチカン市国も参画を希望しています。

バチカン市国も参画ですか。

我々の日本の国立図書館のデジタル化に関する記事を読んだバチカン市国から依頼をいただき、NTTデータがバチカン市国の遺跡ともいえる書物類をデジタル化しています。そして今回、バチカン市国から京都哲学研究所に参画したいというお話をいただきました。背景にはやはりAIの普及があります。一定の規制等で今は制御し得ると思いますが、AIが高度化し人間の性能を凌駕することが明瞭になれば、次は人間が弱いものであるという前提に立たないと、AIを許容できなくなってしまいます。そうすると、I(私)が中心のモデルは崩れます。崩さないとAIをコントロールできないという絶対矛盾が出てしまいます。

それを欧米社会が受け入れることができるかという問題があるのかもしれませんね。

待ったなしでAIがどんどん成長しています。AIを友達化できるかが大切です。

日本人は直感的に鉄腕アトムにしろ、ドラえもんにしろ、AIを友達化する概念を持っています。その概念を世界においても一つの考え方として認知してもらい、お互いに認知することによって、よりよい生活アーキテクチャを考えていくという営みが必要です。通信技術はそういうことに直結していきます。たとえば、ダニは目でものを見るのではなく、温度感覚、酪酸の検知で血を吸って生きています。人間の世界とは違うわけですが、これをどう理解し合えるかというと、技術論的に言えば実は情報通信でもあります。情報通信が進展すればするほど虫の気持ちが分かる、あるいは、テレパシーというものを想定していけるのではないでしょうか。

また、SNSは人間同士を分断してしまいます。SNSは、直接会話するコミュニケーションより情報量が少なく、ビデオ会議もまだ限定的で空気感が伝わり辛い環境です。つまり情報通信の技術がまだ稚拙だということです。本来、人間は自分が思うことを実現してくれるツールを求めており、スマートフォンは使い方を覚えてくれという段階で、すでに駄目なのです。直接話していることが通信の中ではリッチコミュニケーションになってしまいます。自然をどう伝えるかが本質的な技術の狙うところになってきます。通信屋はそこをめざします。

リッチコミュニケーションを取ろうとすればデータ量が非常に増えると思います。対話者の声、顔の色、汗の出ている量、言葉の圧、そこから感じられる気迫、いろいろなデータを我々は感じながらコミュニケーションを取っているのに対して、ウェブ会議は迫真性に欠けます。

コンピューターサイドの人に言わせると、全て計算であり、膨大な計算量が要ります。そのためにはコンピューター処理能力を上げないといけません。そうするとさらなる電力が必要となります。そこにIOWNの光電融合なり光半導体は一つのソリューションとなります。しかし、IOWNが入ったからといって、自然を全て伝えられるわけではありません。そのため、フェース・ツー・フェースもなくなりません。ただ、離れてコミュニケーションする場合でも、会っているのと同じような時空を超えられるものをめざしていきます。したがって、コンピューター処理能力と通信能力を高めることは不可欠です。

とはいえ、全て計算だと言いながらも、なぜ人間が頭の中で反応しているのか、なぜ意識ができるのかは分からないので、そこは計算式をつくることが不可能です。技術が進み、最終的には、考えているだけでほかの方にそれを伝えることができるようになっていくと思いますが、実現するのはかなり先になるかもしれません。

面白いですね。

NTTの研究所では、蜂が紫外線でものを見ることに関する研究など、非常に興味深い基礎研究を行っており、その技術を人間に応用できないかと考えています。人間は可視光線でものを見ていますが、もし紫外線で見ることができれば、機械を視神経に直結し、目が見えない方も見えるようになり、今とは違う世界が広がります。そういう研究を進めてほしいと思っています。

会社は誰のものか

会社は誰のものかという点は?

法律的には株主ですが、マルチステークであるべきだと思います。我々は、インフラがメインになるところがあるので、公共性を意識します。ところが、それは企業性と相反します。その両方をめざしています。

これだけ大きな企業で、道を選ぶというのはすごく大変なことでしょう。

社会、外の人とつながることが大事です。その結果、社会における自分たちの立ち位置をどこに持っていくかが分かってきます。そうすると、自分たちの中の戦略としてどうしていくべきか、ということにつながっていきます。また、NTTグループの社員が、海外14万人、日本19万人おります。バックグラウンドの違う全社員を同じ方向に向かせるのは難しいことですが、全社員のコミュニケーションを円滑に運ぶための仕組みが必要と考え、会社単位で展開していたコミュニケーション構造を改革しました。社長在任期間中は、全社員に向け毎四半期にビデオレターの配信等を行いましたが、新たなコミュニケーション方法は前向きな反応を得ることができました。

そこで伝えるべきものは何なんですか。

個々の戦略やオペレーションは各事業会社がやりますので、持株会社は、世の中の方向性や求められているもの、我々の持っている技術・考えを共有していきたいという発信になりました。その中でIOWNは格好のテーマになったと思います。

関西での学生時代と
人となり

ところで、関西で学生時代を過ごされたと伺っています。

高校・大学時代は京都でした。高校は京都府立桂高校で、大学のようなユニークな高校でした。高校時代は少林寺拳法に打ち込みました。

大変な読書家であられると伺っています。

よく本を読むほうだと思います。

日米経済協議会の会長も長くやっておられますが、英語はいつ勉強されたのですか。

アメリカに3年ほど行ったときです。基本は自分で話すという経験が大切だと思っています。

多様なガラパゴス、
光コンピューター、
宇宙間通信

経団連においてもいろいろな活動をしておられますね。

経団連の使命は日本経済の持続的発展と国民生活の向上です。経団連において全体の方針を皆で議論し、個社がそれに応じて戦略を立て実行していきます。経済界の方向感を調整する場といえます。その中で、政府と二人三脚するものもあれば、ぶつかり議論になっていくものもあります。

多様なガラパゴスをつくりましょうという発言を各所でされてますね。

日本はかなりユニークというか日本らしさが強いため、日本のニーズに対応すると世界で売れるものにはなり辛い傾向があります。ラピダスという先端ロジック半導体のジョイントベンチャーに賛同し出資したのも、スケールメリットを狙わずに、半導体の工程を短くし早くものができるようにして、少量でも良いので多種類を狙うという彼らの戦略に注目したからです。

もしかすると、将来的には光の半導体をつくる会社になるかもしれないですね。

NTT自身がつくるか、パートナーがつくってくれるか分かりませんが、光でいろいろなものが変わっていくと思います。量子コンピューターでは、光の波長を使って量子計算を行う光コンピューターが考えられています。量子暗号は光通信で伝送可能であり、電気信号に変換すると性質を維持できなくなります。インフラサイドからいうと、通信を電気に戻さずに、オール光にすると量子暗号が乗り、量子通信ができます。コンピューターサイドでは、光半導体の方式が量子コンピューターにどれぐらい寄与していけるかということがこれからの研究になります。

実現可能性という意味では乗り越えないといけない課題はたくさんあるのでしょうが、面白いですね。

光の適応領域を小さくしていくと半導体ですが、大きくしていくと宇宙通信のレーザーになります。IOWNはレーザー通信なので、綺麗な波の光を出して、それを光ファイバー内ではなく空間でやり取りします。空気中ではなく、宇宙空間の話です。

そのためには平和な世の中であってほしいですね。

新技術が戦争の抑止力につながればと思います。

法曹界へのメッセージ

法曹界、特に若手に対するメッセージをお願いできますか。

法曹界の先生方は技術の議論について自分とは遠い印象を持たれるかもしれませんが、ITはツールですので使うことを前提に考えていただけたらと思います。AIもツールとして使っていただき、各国のデータベースができ、それぞれに対話させると、それぞれの差異から得られる知恵が出てくるはずです。ツールとしていろいろなものを使って付加価値を高めるパターンをトライしていただけたらと思います。また、サイバー空間上では多くの偽情報の拡散が始まっておりますし、著作権の問題もあります。様々な声や映像も生成AI等を通じてさらに簡単につくれるようになるでしょう。肖像権の議論は以前からありますが、最近はAIを使って自分の顔を入れ変えることもできます。早急にサイバー空間における法的拘束や刑罰を含めた構造をプロアクティブに検討していかなければ、ひどい状況になりかねないと思料します。

いろいろなところがガイドラインをつくりながら、法規は整備されていく形になるんでしょうね。

法律ができても国外では適用できないといったことがあってはいけません。法律も国際関係の中で対処していくべきです。

本日は様々なお話をありがとうございました。

2024年(令和6年)3月13日(水)

インタビュアー:岩井 泉
服部正徳
阿部秀一郎

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