弁護士会から

広報誌

オピニオンスライス 9月号

広島県知事

湯﨑英彦さん

YUZAKI, Hidehiko

昭和100年、戦後80年の節目の本年、広島県の湯﨑知事にインタビュー。被爆者のメッセージをいかに後世へ伝えていくか、平和とは何なのかを改めて考える機会となりました。そのほかにも、広島のまちづくりのお話や、真の意味での男女共同参画社会の実現に向けてのお話もいただきました。

広島のまちづくり

広島は、来るたびに変わっているという印象があります。駅周辺の再開発が進み、広電が駅ビルへ乗り入れるようになり、サッカースタジアムもできました。改めて、今後の広島のまちづくり像についてどのような考えを持っておられますか。

まちづくりは市の主たる管轄になりますけれども、原爆から復興していく過程の中で、今、3世代目に入ってきているんです。広島市の場合は、原爆によって、まち全体が一遍になくなってしまったので、戦後すぐ、取りあえずの復興があって、60年代から70年代にかけて建て直しがあって、そこからまた50年とか60年経ってきているので、ちょうど今、建て替え時期に入ってきているんです。建て直すときには一か所だけというよりは再開発的になっていくことが多いですし、そうでなくても、しっかりと建て替えようという形で今、進んでいるところです。

広島駅もそうで、被爆した広島駅があって、戦後2代目の広島駅ができて、もうそろそろ耐用年数が来たねというところで新しい駅ビルができた。向こう10年から20年ぐらいは、こういう感じの建て替えや再開発が進んでいくだろうと思います。

今回できるまちとか今回できる建物は、100年ぐらい保つのだろうと思うんです。昔のものは50年とか60年ぐらいしか保たなかったけれども、今度建て替える新しいものは100年ぐらい使うので、今建て替えるものは100年後までの広島のまちを規定するものになってくる。そうすると、勝手にそれぞれが建て替えるというのではなくて、きちっとした大きなビジョンの下でやらないといけない。広島市には広島市の都市計画があったんですけれども、非常に抽象的だったので、県と市が一緒にもう少し具体的なまちづくりのビジョンを作り、それに基づいて民間の皆さんとも話し合って、民間も参画する形でまちづくりをしようということで、エリアマネジメントをすることになりました。例えば紙屋町とか八丁堀、広島駅前、あるいは、「うらぶくろ」と言われているエリアについて、エリアごとのエリアマネジメント団体を作っていきました。

そして、それをさらに統合する「広島都心会議」というのを作ったんです。「広島都心会議」の会員は民間の企業さんなので、そこに県と市が参与的な形で入ります。広島市が作ったビジョンがあり、県と市で作ったそれを少し具体化する絵柄があり、それをさらに具体化する各エリアごとのエリアマネジメントがあり、そのエリアマネジメントと行政をつなぐ形で「広島都心会議」がある。この「広島都心会議」では、さらに具体化したまち全体のビジョンを作って、つないでいって、いろんなことをルール化していこうとしています。勝手に動いていくと統一が取れないので、エリアマネジメントごとにこんなふうにやっていこうという方針を、まち全体のルールとできるように「広島都心会議」も入っていくという形で進めているところです。重層的にいろんな人が参画してまちを作っていこうという感覚でやっています。

昭和100年、戦後80年の年を迎えて

話は変わりまして、今年は昭和100年、戦後80年の年です。この節目の年を迎えるにあたり、湯﨑知事はどのような思いを抱いておられますか。

今年は80年なんですけれども、75年がより意義の大きい年だったかと思います。被爆して75年は草木も生えないと言われていたのですけれども、75年はコロナ禍のど真ん中でしたので、式典は行われましたが、大きなイベントもやりませんでしたし、活動できなかったのです。なので、今回80年で、それに代わることもできるでしょうし、また、75年が過ぎて被爆者もどんどん減っていく中で、被爆の意味、特に、将来に向かっての意味とか位置付けを改めて考えないといけないと思っているところです。我々はずっと被爆者の力に依存してきていたところがあるので、これから先は、被爆者がいなくても同様にメッセージ性を持っていく、そのメッセージを伝えていくことができないといけないと思います。そうじゃないと亡くなられた被爆者が報われませんので、それをどう作っていくかということに改めて力を入れていかないといけないと感じます。

最近は、核兵器を持つことが抑止力になるとか、安全保障環境が厳しくなってきているから日本も核を持つべきであるというような意見も、昔と比べると少しずつ増えているように思います。湯﨑知事はそのような意見に対してはどのようにお考えですか。

以前、安倍元総理がそういう発言をされて、岸田元総理がそれを即座に否定したといったこともありましたが、ヨーロッパではもっと顕著で、核共有などの議論が進んでいます。

ただ、結局それは表層的な話だと思うんです。安全を本当に担保するということを考える場合、武器の威力を強めれば強めるほど安全になると表層的には思うかもしれないけれども、それが使われたときにはより被害が大きくなるわけで、核兵器の場合にはまさに取り返しがつかない、回復ができない被害になってしまう。その方が本当に安全なのか。国際関係が厳しくなって危険であればあるほど、むしろ核の要素をなくす、けんかしてもいいから核兵器はない方がいい、という考え方をしないと、本当の意味での安全が脅かされていくと思います。

全国の知事として初の男性育休の取得と男女共同参画社会について

ありがとうございます。さて、15年ほど前ですが、湯﨑知事は、全国の知事として初めて育休を取得されたことで話題になりました。その後、現在では男性の育休もだいぶ浸透してきており、大阪弁護士会においても、以前は女性のみに認められていた育児を理由とする会費減免を男性にも拡充しています。今後の男性育休の推進に向けてどのように動くべきか、湯﨑知事のお考えをお聞かせいただけますか。

育休自体はかなり定着してきて、広島県の場合には5割近くの方が取られます。ただ、問題は「何ちゃって育休」と呼ばれる状態とか、育休を取ってただ単に休むという状態。いやいや、休むんじゃなくて、育児とか家事をするんだという中身の改善が必要です。

いわゆる「育業」と言われるものですね。

そうです。そのためには、男女の役割分担的なバイアスを変えていく必要があると思いますし、育休の期間だけやればいいということでもなくて、全体的に男女間の負担を平準化していく必要がある。

今や共働きが常態になっていて、育休を含めた女性活躍推進というものをやってきましたので、M字カーブの解消はかなり進んできましたけれども、L字カーブはまだ解消されていない。正社員として継続しないという問題もあるわけで、正社員を辞めて働かなくなると1億6000万円ぐらい、復業してもパートで扶養に入るぐらい、つまり年収の壁の内側にいるぐらいでは、1億2000万円から1億3000万円ぐらいの経済的な損失があるわけです。これはものすごい社会的な損失で、しかも、女性が教育を受けた上でそうなっている。そこの部分も変えようと思うと、今、女性には男性の約4倍の家事、育児の負担がかかっているので、それを平準化しないと、男性と同じように働いてと言っても無理なわけです。

ただ、女性の方にもっと働いていただかないと、人手不足も解消されないという問題もありますよね。

そうなんです。だから、次のレベルのためには、男性の育休だけではなくて、男女間の役割分担のバイアスを取っていく。もちろん家庭ごとにいろんな事情があるし、いろんな考え方があるから、男性が全くイコールに分担しないといけないということではないですし、バイアスがないところでそうなるのはいいと思います。

けれども、バイアスの結果そうなっているのはよくないし、マクロから見てもおかしな話なので、それをどう解消するか。それを解消することは少子化にも効くわけです。世帯所得が上がる方が産まれる子どもの数は増える傾向や、男性の家事・育児時間が増える方が産まれる子どもの数は増えるというデータもある。さらに言えば、人口の半分である女性の所得が上がればGDPも上がるわけですし、真の意味での男女共同参画という理念的な部分の意味としても、ものすごくプラスになるので、ホリスティック*1なアプローチをしないといけないと思います。そろそろそういうことに踏み込んでいかないといけないんじゃないかと思います。

※1 物事を部分ではなく全体として捉えつつ、その相互関係をも理解する考え方。

その意味では湯﨑知事の取組は先進的でしたね。全国の知事の中で最初に取り組まれたということで。

今、我々は男性活躍推進というのをやろうとしていて、それは男性の家庭生活における活躍を推進するというものです。女性活躍推進には、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」がありますが、女性は家庭で活躍していて、職場でも活躍しようと言われているものです。逆に、男性は職場では活躍しているだろうから、今度は家で活躍しようということで、そういう条例を今、考えているところです。

弁護士に対するメッセージ

広島県も土砂災害などの災害が起きていると思いますが、大阪弁護士会にも災害復興支援に携わっている委員会がございまして、西日本各地に行っております。
そうしたことも含めて、弁護士が何かお手伝いできることとか、あるいは、弁護士に期待することがございましたら教えていただけますか。

法律は何のためにあるのかというのが、そもそも論としてあると思うんです。それは社会の秩序をつくったり、弱い人を守るということだと思うんです。強い人を後押しする法律というのはあまりないと思うんです。産業の推進などの法律はありますけれども、基本的には弱者を保護する目的の法律が多いので、災害のときはもちろんそうですし、紛争でもそうですが、いろんな局面で弱い人が頼れるような弁護士会、弁護士活動であってほしいなと思います。

貴重なお話を頂戴できました。ありがとうございました。

2025年(令和7年)7月2日(水)

インタビュアー:廣政純一郎
豊島 健司

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