大阪弁護士会の活動

ハーグ条約

ハーグ条約に基づく手続の流れ

では,日本がハーグ条約に加盟したことにより,子どもの連れ去り事案が実際にどのように子どもの連れ去り事案が処理されるのか,見てみましょう。

ここでは,日本人母(妻)がアメリカ人父(夫)に黙って,子どもを連れて日本に帰ってしまったケースを検討します。

(出典:外務省HP

申請を受けた後の主な流れ

日本がハーグ条約に未加盟であったときは,アメリカ人父が日本に連れ去られてしまった子どもを取り返そうとすると,現在子どもがいる日本の法制度に基づいて返還を求めるしかなく,現実問題としては返還を実現するのは非常に困難でした。

しかし,日本がハーグ条約に加盟したことにより,状況が大きく変わることとなりました。
以下では,子の連れ去りが2014年4月1日以降になされた場合を想定して,ハーグ条約の元でどのような手続が行われるのかを説明します(なお,2014年3月31日以前に生じた子の連れ去りについてはハーグ条約の適用はありません)。

まずアメリカ人父は,子どもが現在住んでいる日本,あるいはもともと住んでいたアメリカの中央当局に子どもの返還を求める申立てをします(このケースのような事例では,アメリカの中央当局(国務省)の方が申し立てやすいでしょう)。その後の手続は以下のような流れになります。

  1. アメリカ人父から返還を求める申立てがなされると,アメリカの中央当局(国務省)は,子の所在国である日本の中央当局(外務大臣)に連絡します。日本の中央当局は申請書類の審査を行います。

  2. 連絡を受けた日本の中央当局は,子どもと連れ去り親である日本人母の所在を調査します。

  3. この段階で,中央当局は,子どもが任意に返還されるよう必要な措置を講じるものとされています。たとえば,任意の返還を促進するため,当事者間での協議のあっせん等を行う民間の裁判外紛争解決手続(ADR)機関を利用することが可能です(大阪では,民間総合調停センターが委託先のADR機関となっています)。

  4. 子どもの返還に関する手続(返還命令を出すか否かの判断)は司法当局である裁判所が行います。日本人母が任意の返還に応じない場合,アメリカ人父は子どもの返還を求めて東京又は大阪の家庭裁判所に裁判を起こすことができます。この場合,裁判所は原則として,連れ去り親である日本人母に対して,子どもが元いた国であるアメリカへの返還命令を発します。
    • 「原則」と言ったのは,ハーグ条約の基本的なコンセプトは,不法な連れ去りまたは留置があった場合には子どもを元いた国に返還するところにあるためです。裁判所が返還を命じない事由は,①子どもが連れ去られてから1年を経過し,かつ,子が新しい環境になじんでいることが証明されたとき,②連れ去りの時に子の監護を現実に行っていなかったとき,③その連れ去りに,連れ去られた親の同意や追認があるとき,④子の返還が,身体もしくは精神に危害を加え,又はその他許し難い状況に子をおく重大な危険があるとき,⑤子が返還に異議を述べており,その意見を考慮に入れるのが適切な程度に子が成熟していると認めたとき,⑥人権と基本的自由の保護に関する当該国の基本原則により容認されないときと限定されています。
    • ハーグ条約は,監護権等の具体的な中身の審査・判断は予定しておらず,それは返還した後で返還先の手続で解決する,という姿勢なのです。

  5. こうして,返還命令に基づいて,子どもはアメリカに返還されることになります。
    返還命令をどのように執行するかについてですが,現在の法律では返還命令の執行方法として,①間接強制(返還義務を負う親が子どもを一定期間内に引き渡さない場合に,金銭支払を命じて心理的に強制する方法)と,②代替執行(執行官が子どものいる場所に出向いて子どもを解放し,返還義務を負う親にその費用を課す方法)が認められています。代替執行の場合,日本人母(返還義務を負う親)が抵抗して子どもの返還を拒否した場合に,執行官にどこまでの行為が許されるのかということについては,なお議論が必要なところです。

以上が一連の手続の流れとなりますが,ハーグ条約に基づく子どもの返還手続には迅速性が求められており,申立てから裁判所の最終判断までは,6週間という目標が掲げられています。

アウトゴーイング事案について

次は,フランス人母(妻)が日本人父(夫)に黙って,子どもを日本からフランスに連れ帰ってしまったケースを検討します。

(出典:外務省HP)

日本から他の締約国への子の連れ去り、留置が行われた場合の事案の流れ

日本人父が子どもの返還を求めるには,フランスの裁判所に子どもの返還を求める申立てを行うことになります。それと併せて,ハーグ条約の下での返還手続に関する援助(子の所在の特定,任意の返還の促進等)を求めるには,①日本の中央当局(外務省)に申請する,②外務省を通さずに,フランスの中央当局に直接申請するという方法があります。日本の中央当局に援助申請を行う場合の手続は以下のような流れになります。

  1. 日本人父は,外務省において,子の日本への返還を実現するための援助(日本国返還援助)を申請します。申請書は日本語又は英語で提出することが可能ですが,日本語で提出した場合には英語に翻訳する手間がかかりますので,迅速な手続を望まれる方は,最初から英語にて申請書を提出するとよいでしょう。

  2. 日本人父から返還を求める申請がなされると,日本の中央当局(外務省)は,子の所在国であるフランスの中央当局に連絡します。フランスの中央当局は申請書類の審査を行います。

  3. 連絡を受けたフランスの中央当局は,子どもと連れ去り親であるフランス人母の所在を調査します。この段階で,中央当局は,子どもが任意に返還されるよう必要な措置を講じるものとされています。

  4. 子どもの返還に関する手続(返還命令を出すか否かの判断)は司法当局である裁判所が行います。フランス人母が任意の返還に応じない場合,日本人父は子どもの返還を求めてフランスの裁判所に裁判を起こすことができます。この場合,裁判所は原則として,連れ去り親であるフランス人母に対して,子どもが元いた国である日本への返還命令を発します。

  5. こうして,返還命令に基づいて,子どもは日本に返還されることになります。

  6. その後,夫婦間の話し合いで問題が解決しない場合には,日本の裁判所(家庭裁判所)で監護権等についての調停・裁判が行われることになり,裁判手続を通じて子どもの監護権者,親権者,居住地等が正式に決まることになります。
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