大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

私立高校の校則で定められた頭髪規定及び携帯電話持込禁止規定並びにこれらの運用が生徒らの人権を侵害しているとして申し立てられた人権侵害救済申立てに対し、頭髪規定に関しては、定期的に実施される散髪検査の運用に問題があったこと、携帯電話持込禁止規定に関しては、同規定に違反した生徒及びその保護者に対して携帯電話の解約を求めていることについて問題があったことを認めて人権侵害事実を認定し、勧告及び要望を行った事例。

2023年(令和5年)3月20日

【執行の概要】

当該私立高校の校則で定められた頭髪規定及び携帯電話持込禁止規定に関して事実調査を行った結果、各規定に関して以下の通り判断した。
1 頭髪規定及びその運用について
頭髪規定及びその運用に関しては、髪型が個人の自尊心や美的意識と密接にかかわるものであって、特定の髪型を強制することは、身体の一部に対する直接的な干渉となり、強制される者の自尊心を傷つけるおそれがあると認め、髪型の自由について、人格権と直結した自己決定権の一内容として憲法第13条等の保障が及ぶと認定した。そのうえで、同校の頭髪規定が、人権侵害と評価する余地がないわけではないとしつつ、他方で、私立学校には私学教育の自由が保障されており、過去の最高裁判例が指摘するように、私立学校の建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針が尊重されなければならないこと、面接試験時及び入学時における頭髪規定の周知の状況等に鑑みると、頭髪規定自体が生徒らの髪型の自由を不当に侵害するものとして直ちに違憲・無効であると断ずることはできないと評価し、検査方法や処置の内容が規定を逸脱したり社会通念上相当な指導の範囲を超えるような態様でなされない限りにおいては、頭髪規定自体が生徒の髪型の自由を不当に侵害するものとして直ちに違憲・無効であると判断することはできないと結論づけた。
しかし、同校の実際の頭髪規定の運用に関しては、散髪検査の場において、検査にあたる教師が生徒の前髪に触る、押さえる、引っ張るなどして、眉毛に届くことをもって不合格とした例、教師によって合否の判定に違いがあり、また、特定の教師が生徒によって対応を違える例、合格しなかった生徒に、教師が、ハサミを渡して生徒自らで切ってくるよう指示した例、生徒の前髪を教師自らハサミで切った例があることが認められ、社会通念上相当な指導の範囲を超えたものであって、正当な理由なく、生徒の髪型の自由を侵害しているものと評価されることから、運用の適正化を求めて勧告を行った。
そして、1989年(平成元年)に国連で採択され、1994年(平成6年)に日本もこれを批准した子どもの権利条約が、子どもを「保護の対象」であるだけでなく、何よりもまず「権利の主体」であり、さらには「権利行使の主体」と捉えていること、国連子どもの権利委員会が、日本に対し、日本の子どもの意見表明が家庭・学校その他のあらゆる場所で軽視されている旨、再三にわたって勧告していること等を踏まえ、散髪検査を含む頭髪規定のあり方の見直しを求め、同規定について現行の規定内容及び運用が維持される限りは、事前周知が十分でない事情に鑑み、校則の見直し等を要望した。

2 携帯電話持込禁止規定及びその運用について
携帯電話の持ち込み禁止規定及びその運用に関しては、携帯電話が現代の情報化社会において表現の自由及び知る権利を確保する手段として不可欠の役割を担っていることを認めつつ、前項と同様、私立学校の建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針が尊重されなければならないこと、携帯電話が学業にとって必ずしも必要とはいえないこと等を考慮し、携帯電話持込禁止規定自体が、生徒の携帯電話を所持・利用する権利を不当に侵害するものとして直ちに違憲・無効であると判断することはできないと結論付けた。
しかし、他方、学業に必要がないという観点からは、学校内での携帯電話の使用を禁止するにとどめる、又は、登校時に生徒から携帯電話を預かって保管し下校時に生徒に返却するなどの運用で足りる筈であると判断した。また、携帯電話の持込自体を禁止するということは、生徒らが登下校時に携帯電話を所持・利用することができないことを意味し、公共交通機関を利用し相当程度の時間をかけて通学している生徒が多い実情に鑑みれば、学校内での使用の禁止を超えて、登下校時の所持・利用の禁止を正当化する積極的な理由は見出しがたいと判断した。自然災害や事故、交通障害等による長時間にわたる列車内への閉じ込め等は、いつ発生するとも限らず、生徒らの安全確保の観点からは、日常の登下校時から、生徒ら自身が広く情報を収集し発信できる状態が確保されていることが望ましいと結論づけた(この点、現在当該私立高校が認めている「キッズ携帯」や「位置情報端末」では、生徒が情報を収集することが出来ず、不十分である)。
更に、持込禁止に違反した場合に生徒及び保護者に携帯電話の解約を求めることは、過剰な措置であって、社会通念上相当な指導の範囲を超えていると判断した。しかも、携帯電話禁止規定についての周知について見ると、同校のホームページには、携帯電話持込禁止やこれに違反した場合の解約等の措置についてこれをうかがわせる記載さえ存在せず、以上の事情を考慮すれば、携帯電話持込禁止規定に関し、同規定に違反した生徒及びその保護者に対して、携帯電話の解約を求める措置は、生徒の携帯電話を所持、利用する権利を不当に侵害していると認められ、そのような対応をとらないよう勧告した。
また、学業に必要がないという観点からは、学校内での携帯電話の使用を禁止する範囲にとどめる、又は、登校時に生徒から携帯電話を預かって保管し下校時に生徒に返却するなどの制限で足りるので、登下校時の携帯電話の所持、利用までを禁止すべき理由に乏しく、前記のとおり、生徒らには登下校時に携帯電話による通信手段を確保しておく必要性が認められると判断し、携帯電話持込禁止規定のあり方の見直しを求め、同規定について現行の規定内容及び運用が維持される限りは、事前周知が不十分な点を踏まえ、見直し等を要望した。

私立高校の校則で定められた頭髪規定及び携帯電話持込禁止規定並びにこれらの運用が生徒らの人権を侵害しているとして申し立てられた人権侵害救済申立てに対し、頭髪規定に関しては、定期的に実施される散髪検査の運用に問題があったこと、携帯電話持込禁止規定に関しては、同規定に違反した生徒及びその保護者に対して携帯電話の解約を求めていることについて問題があったことを認めて人権侵害事実を認定し、勧告及び要望を行った事例。

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