大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

法務大臣に対し、被収容者が刑事施設から留置施設等に移送された上で他の刑事施設へ移送される場合に、自弁物品を引き続き使用する希望があれば、刑事施設から直接に他の刑事施設へ移送される場合と同様、移送先の刑事施設で自弁物品を領置せず使用を継続できるよう、訓令改正等の措置を執ることを要望した事例

2023年(令和5年)3月29日

【執行の概要】

1 被収容者が刑事施設に収容される際に所持する物品は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)44条に基づく検査を経て、45条に掲げる処分を求める物品に相当しないものについて、47条の規定に基づき、被収容者が使用または摂取することができる物品を同人に引き渡し(保管私物)、それ以外のものを刑事施設の長が領置する(領置物品)。

2 被収容者は、①衣類、②食料品及び飲料、③室内装飾品、④嗜好品について、刑事施設の長の許可を受け、自弁購入をして使用または摂取することができる(法41条)。

3 法務大臣の定める、被収容者に係る物品の貸与、支給及び自弁に関する訓令(法務省矯成訓第3339号。以下「訓令」という。)10条において、刑事施設の長が被収容者に自弁を許す物品の形状及び規格を定めることができるとされている。
 したがって、刑事施設ごとに、自弁を許す物品の形状や規格が異なる場合がありうる。
 ただし、被収容者が刑事施設から他の刑事施設に移送される場合には、訓令15条により自弁物品について特例を設け、他の刑事施設において使用を認められていたものはそのまま保管私物として継続使用を認めている。
 ところが、訓令には刑事施設から留置施設(警察署)に移送された上で他の刑事施設へ移送される場合についての定めがない。

4 申立人は、京都拘置所に収容されていたが、2021年(令和3年)5月27日に別件で逮捕されて警察署に移監され、所有私物も全て警察署に移されることとなった。その際、京都拘置所では保管私物である自弁購入品(電気シェイバー、シャンプー、石鹸、櫛、ヘアゴム、ボールペン、シャープペンシル、消しゴム、筆箱、ノート及びクッキー)を箱詰めして「開封厳禁」と大書する措置を執った。
 その後、申立人は京都拘置所ではなく大阪拘置所へ移監され、収容時の検査において、「開封厳禁」と書かれた箱は開披され、自弁購入品のうち櫛、筆入れ及びノートのみが保管私物として使用を許され、クッキーは賞味期限があることから廃棄され、その余は領置物品とされた。それで、申立人は髭剃りのためにT字剃刀の貸与を受けざるを得ず、またボールペン、シャンプー及び石鹸を再度自弁購入せざるを得なくなった。

5 刑事手続において身体拘束を受ける被収容者であっても、自弁物品を使用する権利は財産権として憲法29条により保障されており、合理的な理由なく侵害されてはならない。法及び訓令の解釈は、被収容者の財産権保障の観点からなされなければならない。
 申立人のように、京都拘置所から一旦警察署の留置施設に移送され、その後大阪拘置所に移送された場合は、訓令15条に該当しない。したがって、大阪拘置所が法44条の規定に基づき、申立人が京都拘置所で使用していた自弁物品の使用を認めず、領置する取扱いをしたことは、法違反ないし訓令違反ではない。
 しかしながら、刑事施設間で移送される場合との比較で、合理的理由のない不平等取扱い(憲法14条違反)に当たる余地がある。

6 確かに、刑事施設は、日々、相当数の被収容者を受け入れ、受入時には、施設受入物品の検査を一律の基準に基づき行わなければならない。被収容者が収容される際に所持する多種多様多量の物品について、それが刑事施設(拘置所)での自弁購入物品であるか否かを一つ一つ確認する作業を行うのは不合理である。
 しかし、訓令15条は、被収容者が刑事施設にて自弁購入した物品を他の刑事施設でも継続使用する利益を認めるものであり、刑事施設間の直接移動であれば被収容者の所在履歴及び物品の来歴が職務上自明であるが故の措置である。
 そうであれば、刑事施設間の直接移動でなくとも、物品の来歴が自明でありさえすれば、自弁物品を継続的に使用する利益を享受できるよう、保障される範囲を広げるべきである。

7 本件では、京都拘置所が、申立人の自弁物品を箱詰し「開封厳禁」と大書する措置を執っていた。これを警察署等留置施設においても被収容者の希望により開封を望まない場合は開封せず、刑事施設における封緘のままで次の移送に供するならば、物品の来歴が明確であるから、再度刑事施設に収容された際にも、自弁物品として使用を許すことで問題は生じないはずである。
 このように、法務大臣において訓令の改正を行う等の運用変更により、本件と同様の事案の発生を防ぎ、もって、被収容者の自弁物品を継続して使用する利益を保障することが望まれる。
 したがって、要望の趣旨記載のとおり要望したものである。

法務大臣に対し、被収容者が刑事施設から留置施設等に移送された上で他の刑事施設へ移送される場合に、自弁物品を引き続き使用する希望があれば、刑事施設から直接に他の刑事施設へ移送される場合と同様、移送先の刑事施設で自弁物品を領置せず使用を継続できるよう、訓令改正等の措置を執ることを要望した事例

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