大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

法務大臣に対し、受刑者以外の被収容者に自弁を許す品目(法務省矯成訓第3339号被収容者に係る物品の貸与、支給及び自弁に関する訓令別表9)のうち、「化粧水類」について、「女子に限る」との条件を撤廃するよう勧告した事例

2023年(令和5年)3月29日

【執行の概要】

1 本件は、大阪拘置所において勾留中の2名の申立人から、同所において乳液及び化粧水類(以下、これらを「化粧水類」という。)の自弁購入を希望したところ、女子にのみ認められる物品であることを理由に認められなかったとして、人権救済が申し立てられたものである。申立人らは、いずれも戸籍上、男子であるが、うち1名は、性自認が女子である。
 関連法令については、次の通り、略称を用いる。
 ア 刑事収容施設法  刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
 イ 特例法  性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
 ウ 物品訓令  法務省矯成訓第3339号 被収容者に係る物品の貸与、支給及び自弁に関する訓令
 エ 法務省通知  法務省矯成第3212号通知 性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針について

2 物品訓令別表9は、受刑者以外の被収容者に自弁を許す日用品、文房具その他の刑事施設における日常生活に用いる物品の一品目として、「化粧水類」をあげるが、同「摘要」欄には「女子に限る。」との記載がある。この「女子」とは、実務上、戸籍上の性別が女子である者と解されている。
 また、刑事施設における分離収容については、「性別」が基準にあげられており、実務上、当該「性別」とは戸籍上の性別と解されている(刑事収容施設法第4条第1項第1号)。トランスジェンダーのうち、戸籍上の性別を変更した者については、変更後の性別に従うとされていることから、トランスジェンダーも、刑事施設においては、原則として戸籍上の性別に従った処遇を受ける。
 さらに、法務省通知は、日用品の受刑者以外の被収容者の自弁について、「性別により品名が限られている物品については、原則として、戸籍上の性別に係るもののみ自弁を許すことが相当である」としており、戸籍上の性別によることを原則としている。
 一方、例外規定として物品訓令9条の2があるものの、「他の性別に係る身体的特徴に近似する外観を備えている被収容者」が、他の性別に限り使用が予定されているものの使用を申し出た場合において、個別具体的な事情を考慮し、必要と認めたときは、これを許すことができるとする。そのため、例外規定の適用を受けるのは、その身体について他の性別に係る身体的特徴に近似する外観を備えている被収容者に限られる。
 また、法務省通知も、「個別の事情により使用の必要が認められる場合には,物品訓令第9条の2に基づき,自弁を許すこととして差し支えない」としている。そのため、法務省通知においても、例外規定の適用を受けるのは、その身体について他の性別に係る身体的特徴に近似する外観を備えている被収容者に限られることとなる。
 以上から、受刑者以外の被収容者である未決拘禁者による「化粧水類」の自弁が許されるのは、戸籍上の性別が女子である者、あるいは、その身体について他の性別に係る身体的特徴に近似する外観を備えている被収容者に限られる。

3 今日において、時代の変化に従い男子においても化粧水類を使用する者の割合は相当数にのぼる。そして、化粧水類の使用は、美容・外観という個々人の選択・自由の範疇に入るものであるから、個々人によって差異が生じることは幸福追求権(憲法第13条)から当然に予定されるところであり、一律に性別によって区別することは目的・手段において合理性を欠くといわざるをえない。また、物品訓令別表9においては、「クリーム類」の使用は、皮膚の保湿を目的として女子に限らずすべての被収容者に自弁が許されており、顔面の皮膚の保湿を目的とする「化粧水類」をこれと同様に扱っても何らの不都合も生じない。 よって、女子のみに「化粧水類」の自弁を認める本件差別的取扱いは、憲法第14条第1項に違反するというべきである。

4 本件では、憲法第14条第1項に列挙された「性別」による差別的取扱いが問題となっているところ、本件差別的取扱いを撤廃することによる利益は戸籍上男子である者にとどまらずあらゆる者に及ぶこと、拘置所における性別ないし性自認による差別的取り扱いはこれまでも日本弁護士連合会や各単位会から指摘されているところであることをふまえ、勧告の趣旨記載のとおり勧告した。

法務大臣に対し、受刑者以外の被収容者に自弁を許す品目(法務省矯成訓第3339号被収容者に係る物品の貸与、支給及び自弁に関する訓令別表9)のうち、「化粧水類」について、「女子に限る」との条件を撤廃するよう勧告した事例

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