大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

拘置所に収容中の未決拘禁者は、勾留期間が長期化した場合、未決拘禁中に運転免許の有効期限が過ぎて失効し、さらに、運転免許失効後においても再取得のための簡易な試験を受験できる期間(3年)が経過してしまうおそれがあることから、法務大臣に対し、平成16年11月16日付け法務省矯保第5794号矯正局保安課長・教育課長通知「矯正施設における特定失効者に対する運転免許試験の実施について」を改訂し、この通知の対象者を、未決勾留により拘禁されている者のうち、少なくとも運転免許が失効してから2年が経過した者まで拡大するよう勧告した事例

2023年(令和5年)3月29日

【執行の概要】

1 道路交通法一部改正(2002年(平成14年)6月1日施行)に伴い、刑事施設収容中に運転免許が失効して3年が経過した者は、出所後免許を再取得する場合、試験の一部免除が認められず、すべての試験を受験しなければならなくなった。
 もっとも、円滑な社会復帰のため、確定裁判等の執行として拘禁されている者に対しては、拘禁中に運転免許が失効した場合、矯正施設内で運転免許試験を受験する機会が与えられている(平成16年11月16日付け法務省矯保第5794号矯正局保安課長・教育課長通知)。
 上記通知によれば、未決拘禁中の者のうち運転免許が失効しても3年が経過しないうちに確定裁判等により拘禁されることになった者は、収容先の刑事施設において施設内免許取得再試験を受けることができる。
 また、道路交通法の規定により、未決拘禁中の者のうち運転免許が失効しても3年が経過しないうちに確定裁判等により拘禁されることがなかった者については、在監等やむを得ない理由がある者で、運転免許証の有効期間が過ぎてからから6か月を超えて3年以内で、やむを得ない理由がやんだ日から1か月以内であれば、運転免許試験場において本件通知と同様の試験を受けることができることから(やむを得ない理由があり、運転免許証の有効期間が過ぎてから6か月以内の者も同様)、同試験を受験することができる。

2 申立人が有する運転免許の有効期限は、2018(平成30)年2月5日であった。申立人は、大阪拘置所において未決拘禁中であった同年1月頃、及び、同所において未決拘禁者の地位を有する受刑者であった2019年(平成31年)1月頃の2度に渡り、職員に対し、免許の更新手続を要望した。しかし、いずれも、未決拘禁者は対象外であるとして認められなかった。

3 大阪拘置所長は、①未決拘禁者は、上記通知の対象外である、②上記通知の対象者は、大阪拘置所を処遇施設とし、かつ、同所内で経理作業を課している懲役受刑者(自所執行受刑者)であるとして、同所において未決拘禁中の者には、施設内免許再取得試験を実施させていないとする。また、法務省矯正局成人矯正課長は、未決拘禁者としての地位を有する受刑者については、罪証隠滅防止の観点から、同試験を受験させる機会を与えることが刑事施設の管理運営上困難であるなどの理由から、上記通知の対象としていないとする。

4 しかし、運転免許は、社会生活上、特に就労場面において重要な資格であり、その再取得には決して軽視できない費用と労力を要する。とりわけ未決拘禁者や確定裁判等の執行として拘禁されている者が運転免許を有している場合、収容施設を退所後、その有する運転免許を活用して就労先を確保し、実際に就労することは、円滑な社会復帰のため不可欠であるといっても過言ではない。
 そのため、免許更新期限内に免許を更新したり、仮に更新期間が徒過したとしても一定期間内であれば特別な試験を受験したりすることにより、運転免許を保持する利益は、職業選択の自由や移動の自由(憲法第22条)、幸福追求権(同第13条)により認められるべきである。
 また、上記通知の趣旨は、未決拘禁者においても当てはまるところ、未決拘禁者は、逃亡又は罪証隠滅の防止という未決勾留の目的のために、必要かつ合理的な範囲において、身体の自由及びそれ以外の行為の自由に制限を受け、また、刑事施設内の規律及び秩序の維持上、放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が認められる場合には、かかる障害発生の防止のために、必要な限度で身体の自由及びそれ以外の行為の自由に合理的な制限を受けるが、他方、当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障される立場にある。
 上記通知による措置によって、確定判決の執行により「拘禁されている者」については、少なくとも更新期間が徒過したとしても一定期間内であれば、施設内免許取得再試験により免許失効を防ぐことができるのに対し、一般市民としての自由を保障される立場にある未決拘禁者が、確定判決等の執行として「拘禁されている者」ではないという理由によって、それらの者に認められている免許失効防止措置を実施されないことには、合理的理由を見いだすことができず、平等原則(憲法第14条)に反する。

5 運転免許の有無は、本人の社会復帰に際し重大な影響を及ぼすもので、上記通知そのものを改訂しない限り、抜本的な解決には至らないところ、2010年には大阪弁護士会、2021年には日本弁護士連合会からそれぞれ同趣旨の要望が出されていることを踏まえ、本件では、勧告の趣旨記載のとおり勧告したものである。

拘置所に収容中の未決拘禁者は、勾留期間が長期化した場合、未決拘禁中に運転免許の有効期限が過ぎて失効し、さらに、運転免許失効後においても再取得のための簡易な試験を受験できる期間(3年)が経過してしまうおそれがあることから、法務大臣に対し、平成16年11月16日付け法務省矯保第5794号矯正局保安課長・教育課長通知「矯正施設における特定失効者に対する運転免許試験の実施について」を改訂し、この通知の対象者を、未決勾留により拘禁されている者のうち、少なくとも運転免許が失効してから2年が経過した者まで拡大するよう勧告した事例

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