大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

刑務所内で重度視覚障害を有する受刑者が自弁ルーペの使用を不許可とされたことに関する警告

2023年(令和5年)7月25日

【執行の概要】

1 申立人は、大阪刑務所で受刑していた者であるが、重度の弱視(両眼視力0.01以下。視覚障害1級相当)で読み書きには補正器具としてルーペを使用する必要がある。
 申立人は、過去に大阪刑務所以外の他の刑事施設ではルーペの使用を許可されていた。
 申立人が自弁のルーペの利用申請を行ったところ、大阪刑務所は、①ルーペの金属部分を研磨して鋭利に加工したり、ルーペの凸レンズで発火させたりする危険がある、②入所後40日程度は申請をしておらず、眼鏡の使用のみで特段の支障はなかった、との理由から不許可とした。
 大阪刑務所は、申立人が8年前の前刑服役時に同様のルーペ利用申請をした際にも不許可にしており、大阪刑務所に対しては、申立人の人権侵害申告を受けた当会から、自弁のルーペの所持及び使用を認めるよう勧告がなされている。

2 文字を読むことは、情報に接する手段であり、憲法第21条に根拠を有する「知る権利」に資する。視力の矯正、補正を受けることは、知る権利、及び健康で文化的な最低限度の生活を送る権利(憲法第25条)として、保障される。
 刑事収容施設及び被収容者の処遇に関する法律第42条1項は「被収容者には、次に掲げる物品については、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがある場合を除き、自弁のものを使用させるものとする」として、1号で「眼鏡その他の補正器具」を挙げている。大阪刑務所はルーペを補正器具に準じるものとして扱っているので、申立人に自弁のルーペの使用を認めるべきである。
 また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律は、行政機関における障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止している(第7条)。同法に基づき「法務省における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」(平成27年11月30日付け法務省人企訓第4号)も定められている。それに対して、大阪刑務所が申立人に対して自弁のルーペの使用を認めず、文字が読み取れない状態に置くのは、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当する。

3 大阪刑務所が上記ルーペの使用を不許可とした理由に対しては、金属製の板を研磨する等により悪用されることを防ぐためには、ルーペの使用後に回収するなど適切な保管方法をとれば足りる。また、レンズによる発火の危険に対しては、ルーペの使用場所や使用時間を別途管理するなどの方法をとれば足りる。
 さらに、申立人は、過去に他の刑事施設ではルーペの使用を許可されていた。
 とすれば、大阪刑務所が不許可の理由とする「支障を生ずるおそれ」はきわめて抽象的なものであって、申立人に保障されるべき知る権利及び健康で文化的な最低限度の生活を送る権利を制約する理由とはならない。
 また、申立人が入所後40日程度経過してからルーペの使用を願い出たのは、その間は他の受刑者に代読してもらうなどして、単に不便さを甘受していただけのことであり、受刑生活上の支障がなかったわけではない。

4 大阪刑務所の措置は、申立人の知る権利及び健康で文化的な最低限度の生活を送る権利を著しく侵害するものであり、また障害者に対する不当な差別的取扱いに該当するものでもあるから、視力に障害を有する被収容者に対し、対象を拡大できるレンズの付いた視力を補正するための自弁のルーペの所持及び使用を認めるよう警告する。

刑務所内で重度視覚障害を有する受刑者が自弁ルーペの使用を不許可とされたことに関する警告

ページトップへ
ページトップへ