大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

市長が、ソーシャルネットワークにおいて、市長のアカウント名で、某団体の署名活動に関し、某団体代表者である申立人の氏名や勤務先、並びに申立人が特定の政党に所属する議員の親族であることを記載した投稿について、削除するよう勧告した事例

2023年(令和5年)10月20日

【執行の概要】

1(1) 申立人は、岸和田市の学童保育に通う子どもの保護者らでつくる団体「岸和田学童保育連絡会」(以下「岸和田学保連」という。)の2019年度会長として、学童保育の拡充等を目指し、学習会や自治体への要望活動、署名活動等に取り組んでいた。
 申立人らが行っていた署名活動は、各校区の学童保育単位で存在する保護者会に呼びかけ、具体的な方法は各保護者会に委ねるもので、主な方法は、各校児童の下駄箱に署名用紙を投函し、学校長の許可の上で設置した回収箱を用いて回収するというものであり、岸和田市の子育て支援課とも事前協議の上で行っていた。
(2) 岸和田市長は、「永野耕平 岸和田市長」のアカウント名で利用していたソーシャルネットワークサービス(SNS)において、2019年(令和元年)12月18日から同年同月21日にかけて、申立人らの署名活動(学童保育の増設や開設時間の延長、支援員の労働環境改善を求めるもの)に関して、5回の投稿を行い、そのうちの一つの投稿(以下「本件投稿」という。)には申立人の氏名と勤務先、及び申立人が特定の政党に所属する議員の親族であることが記載されていた。
(3) 本件投稿がなされた後、岸和田市教育委員会から各校園長に対し、「服務規律(政治的行為の制限)の徹底について」と題する通知が発出され、同通知には、「学校園内において、制限されている政治的行為が行われないように管理すること」を徹底されたいと記されていた。
(4) 本件投稿は現在もインターネット検索により閲覧可能な状況である。

2 本件投稿には、申立人の個人情報が記載されており、他の投稿と照らすと、本件投稿の読者に対し、申立人が特定の政党関係者であると思わせる書きぶりとなっている。一般に、氏名や勤務先、家族関係の情報をみだりに開示されたくないと考えることは合理的であり、とりわけ、誰もが閲覧可能なインターネット上において、自らの個人情報がみだりに公表されない利益は法的保護の対象となる。
したがって、本件投稿によってSNS上で個人情報を公開する行為は、申立人のプライバシー権を侵害するものである。

3 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は法的保護の対象となり、このような人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解されている。
この点、ツイッター運営会社に対する投稿記事の削除請求を認容した最高裁判所令和4年6月24日判決(民集76巻5号1170頁)の判示内容が本件にも妥当し、本件事実の性質及び内容、本件投稿によって本件事実が伝達される範囲と申立人が被る具体的被害の程度、申立人の社会的地位や影響力、本件投稿の目的や意義、本件投稿がされた時の社会的状況とその後の変化など、申立人の本件事実を公表されない法的利益と本件投稿を一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して、申立人の本件事実を公表されない法的利益が本件投稿を一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件投稿の削除を求めることができるものと解するべきである。

4 本件投稿の目的や意義が、公立学校施設において署名活動が行われたことや、署名活動が特定の政党による政治活動として行われている可能性について問題提起することにあったとしても、申立人の個人情報を記載する必要があったとは認められない。
市長という立場にあり、アカウントのフォロワー数が5000名を超えること、本件投稿がインターネット検索により誰もが閲覧できる状態になっていることに鑑みれば、申立人が被るプライバシー権侵害の程度も大きいといえる。

5 また、署名活動による請願を受ける立場にある市長が、署名活動者の個人情報を、必要性がないにもかかわらずインターネット上で誰もが閲覧できる状態にし、そのプライバシーを侵害することは、請願権の行使として署名活動を行うこと自体に萎縮効果を与えかねない。

6 以上の諸事情に鑑み、岸和田市長に対し本件投稿を削除するよう勧告する。

市長が、ソーシャルネットワークにおいて、市長のアカウント名で、某団体の署名活動に関し、某団体代表者である申立人の氏名や勤務先、並びに申立人が特定の政党に所属する議員の親族であることを記載した投稿について、削除するよう勧告した事例

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