大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

刑務所が、受刑者である申立人の意に反し、「原型刈り」又は「前五分刈り」を選択させ、調髪を実施したことは、申立人の髪型についての自己決定権を侵害するものであるから、法務大臣が定めた「被収容者の保健衛生及び医療に関する訓令」第6条第2項を改め、受刑者の調髪について、受刑者の意に反して「原型刈り」又は「前五分刈り」を強制することのないよう勧告した事例

2024年(令和6年)3月8日

【執行の概要】

1 本件は、戸籍上の性別は男性であるが女性としての性自認を有する申立人が、男性受刑者の髪型として定められている「原型刈り」または「前五分刈り」のいずれかで調髪するよう迫られ、「原型刈り」で調髪されたことが人権侵害にあたるとして申立てがなされた事案である。

2 憲法第13条は、生命・自由及び幸福追求に対する国民の権利を保障しており、その一内容として、自己に関する事柄について、公権力の干渉を受けることなく、自ら決定することのできる権利(自己決定権)を保障している。
個人の髪型は、個人の自尊心あるいは美的意識と分かちがたく結びつき、特定の髪型を強制することは、身体の一部に対する直接的な干渉となり、強制される者の自尊心を傷つけるおそれがあるから、個人が髪型を自由に決定しうる権利は、個人が一定の重要な私的事柄について、公権力から干渉されることなく自ら決定することができる権利の一内容として、憲法第13条により保障されていると解される。
この髪型の自由は、受刑者であっても、矯正処遇の目的に反しない限り保障されている。

3 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第60条第1項にいう法務省令である刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則第26条第5項に基づき法務大臣が定めた「被収容者の保健衛生及び医療に関する訓令」(以下「訓令」という。)は、男性受刑者の調髪について、原則として「原型刈り又は前五分刈りのうちから、その受刑者が選択する髪型を参考にして行わせるものとする。」と定める(訓令第6条第2項)。「原型刈り」は、0.2センチメートルのクリッパーで頭髪の全体を平均に刈るものであり、「前五分刈り」は、長さ1.6センチメートル程度に刈り上げるものである。他方、女性受刑者の調髪については「華美にわたることなく、清楚な髪型とする。」と定める(訓令第6条第1項⑵)。
しかし、頭髪を「原型刈り」等のいずれかに限定することは、受刑者の社会復帰と更生に結び付くものではなく、刑事収容施設の適正な管理運営にとっての必要性も認められない。そのことは、女性の受刑者の調髪方法については「華美にわたることなく、清楚な髪型とする。」とされており、ある程度の自由が認められていながら何ら問題が生じていないことからしても明らかである。少なくとも、男性の受刑者に女性の受刑者と同程度の髪型の自由を認めても、刑事施設の規律及び秩序の適正な維持や、矯正処遇の適切な実施が妨げられるものとは認められない。
したがって、男性受刑者の髪型を「原型刈り」等に限定していることに合理的な理由があるとはいえず、受刑者の意に反して「原型刈り」等を強制することは、髪型についての自己決定権を侵害するものである。
加えて、申立人は女性としての性自認を有する者であり、社会において女性で「原型刈り」等の髪型をしている者は通常ほとんど見られないことからすれば、申立人が「原型刈り」等を強制されることによって被る精神的苦痛は著しいと言える。

4 今後、同様の人権侵害が生じないようにするためには、男性受刑者の調髪方法を原則として「原型刈り」等としている訓令の規定を改めるべきであるから、上記のとおり勧告した。

刑務所が、受刑者である申立人の意に反し、「原型刈り」又は「前五分刈り」を選択させ、調髪を実施したことは、申立人の髪型についての自己決定権を侵害するものであるから、法務大臣が定めた「被収容者の保健衛生及び医療に関する訓令」第6条第2項を改め、受刑者の調髪について、受刑者の意に反して「原型刈り」又は「前五分刈り」を強制することのないよう勧告した事例

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