大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

大阪拘置所が、性同一性障害と同様の傾向を有する者として処遇していた申立人を、約4カ月にわたり、動静監視及び職員の職務の正当性担保という理由で、監視カメラが設置された居室に収容したことは、憲法第13条によって保障されるプライバシー権を侵害するものである。そのため、法務省に対し、刑事施設において職員の職務の正当性を担保することを理由として、監視カメラの設置された居室へ収容することのないよう、その発出する通知を改めるよう勧告し、また、大阪拘置所に対して、監視カメラによって監視する高度の必要性がない限り、監視カメラが設置された居室へ被収容者を収容することのないよう勧告した事例

2024年(令和6年)3月8日

【執行の概要】

1 未決拘禁者は、有罪の判決が確定するまでは無罪と推定され、刑事司法上の目的達成のためのやむを得ない措置として勾留されているに過ぎない者である。
監視カメラが設置された居室は、24時間、カメラにより被収容者の動静を監視し、録画・保管することが可能であり、巡回視察に比べプライバシー権の侵害の度合いが大きい。また、その設備は、通常の居室に比べ、常に監視されているのではないかとの心理的圧迫感等を抱かせるもので、収容は不利益処遇といえる。
したがって、未決拘禁者を監視カメラが設置された居室へ収容することは、監視する高度の必要性があり、かつ、監視の方法・態様・期間等が必要かつやむを得ない範囲にとどまっていることが厳格に求められる。
このことについては、過去4度にわたり、当会より大阪拘置所に対して勧告ないし警告をしているところでもある。

2 しかし、平成23年6月1日付け法務省矯成第3212号矯正局成人矯正課長・矯正医療管理官通知「性同一性障害等を有する被収容者の処遇方針について」は、本人保護のみならず、職員の職務の正当性を担保することを目的として、必要に応じて監視カメラが設置された居室への収容等を検討することとしている。
これについて、職員の職務の正当性の担保を理由として被収容者を監視カメラが設置された居室に収容してプライバシー権を侵害することは、被収容者を保護するための措置として本末転倒である。職員の職務の正当性の担保は、他の方法によって図るべきであり、そのことを理由として、被収容者のプライバシーの重大な侵害となる措置をとることは認められるべきでない。
したがって、上記通知は、刑事施設において職員の職務の正当性を担保することを理由として監視カメラの設置された居室へ収容することのないよう改められるべきである。

3 また、大阪拘置所は、申立人を監視カメラが設置された居室に収容した理由として、申立人保護のため居室視察窓にロールスクリーンを設置したことにより、職員による動静視察が困難となり得る状況になったことから、これを補完するため、また、男子職員による申立人に対する卑猥な行為が行われていないという職務の正当性を担保するためとする。
しかし、居室内の動静視察を行うには、居室視察窓から動静視察を行う都度、ロールスクリーンを開閉して動静視察を行えば足りる。
したがって、動静視察を補完するためという理由で、申立人を監視カメラが設置された居室に収容して常時動静を視察する必要性そのものが認められない。

4 以上のとおりであるから、今後、性同一性障害や同障害と同様の傾向を有する被収容者に対する人権侵害の再発防止のため勧告を行った。

大阪拘置所が、性同一性障害と同様の傾向を有する者として処遇していた申立人を、約4カ月にわたり、動静監視及び職員の職務の正当性担保という理由で、監視カメラが設置された居室に収容したことは、憲法第13条によって保障されるプライバシー権を侵害するものである。そのため、法務省に対し、刑事施設において職員の職務の正当性を担保することを理由として、監視カメラの設置された居室へ収容することのないよう、その発出する通知を改めるよう勧告し、また、大阪拘置所に対して、監視カメラによって監視する高度の必要性がない限り、監視カメラが設置された居室へ被収容者を収容することのないよう勧告した事例

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