大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

刑務所は、被収容者に処方薬剤の情報を伝える際、被収容者が各薬剤に関する情報を正確に理解することが難しい場合や、被収容者が文書による情報提供を求めている場合などは、医療の従事者をして、処方した薬剤の名称、種類又は内容、服用方法、効能および特に注意を要する副作用の情報を文書により提供させるよう要望した事例

2024年(令和6年)3月8日

【執行の概要】

1 刑事施設に収容されている被収容者であっても、行刑の目的に反しない限り、生命、自由及び幸福追求に対する権利について最大の尊重を受け、自己の生命・身体・健康などに関わる自己決定のため、自己の診療情報を得る権利が保障されている(憲法第13条)。
被収容者の診療記録の取扱い及び診療情報の提供に関する訓令は、第14条第1項第3号で、医療従事者は、患者に対し、「処方する薬剤について、その名称、種類又は内容、服用方法、効能及び特に注意を要する副作用」に関する診療情報を提供するものと定めている。そして、診療情報提供の方法については、原則として口頭によるものとし(訓令第15条本文)、「提供する情報の内容の難易度,患者の理解力の程度等を勘案して特に必要と認めるとき」は、口頭による説明に加え、提供すべき情報を文書に記載して交付するものとしている(訓令第15条但書)。
この点、医師法第22条第1項は、「医師は、・・患者又は現にその看護に当たっている者に対して処方箋を交付しなければならない。」と定め、同法施行規則第21条は、医師は、患者に交付する処方せんに、薬名、分量、用法等を記載しなければならないと定めている。
また、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第9条の4も、処方せんにより調剤された薬剤に関する情報の提供について、薬剤の名称や効能、効果等の情報を書面で提供すべきことを定めている。
このように、薬剤に関する情報の提供については、書面で提供することが原則とされていること、また、自己の診療情報を得ることは自己の生命・身体・健康等に関する自己決定のために必要不可欠であることからすると、被収容者に対する薬剤情報の提供において、訓令第15条但書については柔軟な解釈運用がなされるべきである。

2 本件では、刑務所の医師から申立人に対し、7種類の錠剤と1種類の塗り薬が処方されていたが、処方薬剤の名称及び服用方法について文書での提供はなく、口頭で説明するにとどまっていた。一般的に、7種類もの多数の錠剤を処方された場合、口頭のみの説明では、処方されたそれぞれの錠剤について、その名称や効能等を正確に理解するのは困難である。しかも、本件では、7種類もの薬剤がある中で、前施設で処方されたものと同じ名称の薬剤がない時は、同じ効能の薬剤を処方したという説明がなされたのみであった。その結果、申立人には、処方された薬剤に関する診療情報について、正しく理解できるレベルにまでは伝わらなかった。
以上の事実からすると、刑務所が申立人に対し、処方した薬剤の名称、種類又は内容、服用方法、効能及び特に注意を要する副作用といった提供すべき診療情報について、口頭による説明のみを行い、文書の交付を行わなかったことは、憲法第13条で保障された、申立人の自己の生命・身体・健康などに関わる自己決定のために自己の診療情報を得る権利を侵害するおそれがあると判断し、上記のとおり要望した。

刑務所は、被収容者に処方薬剤の情報を伝える際、被収容者が各薬剤に関する情報を正確に理解することが難しい場合や、被収容者が文書による情報提供を求めている場合などは、医療の従事者をして、処方した薬剤の名称、種類又は内容、服用方法、効能および特に注意を要する副作用の情報を文書により提供させるよう要望した事例

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