大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

大阪拘置所が、未決拘禁者である申立人を、少なくとも1年10か月もの間、合理的な理由が存在しないにもかかわらず、監視カメラ付きの単独室に昼夜収容したことは、憲法第13条によって保障されるプライバシー権を侵害し、人格的尊厳を傷つけるものであり、今後、監視カメラによる監視を必要とする高度な危険性が存在するという具体的事情が認められない限り、被収容者を監視カメラ付きの単独室に収容してはならず、かつ、監視の方法・態様・期間等を必要かつやむを得ない範囲にとどめる運用を徹底されるよう警告した事例

2024年(令和6年)3月26日

【執行の概要】

1 監視カメラによる監視は、被収容者にとって監視されていることを認識できない点において心理的な負担があり、排泄行為を含む日常生活のすべての動作を常時監視することが可能であることから、通常の単独室収容と比べ拘禁感や圧迫感において格段の差がある。
監視カメラによる昼夜監視は、個人の尊厳原理(憲法第13条)に由来する、私生活を公権力によってみだりに公開されないプライバシー権のほか、個人の人格的生存に必要不可欠な心身の健康・精神的平穏などの人格権をも侵害するおそれが強い。
したがって、監視カメラ付き単独室への収容は、原則として行われるべきではなく、監視カメラによる監視を必要とする高度な危険性が存在するという具体的事情が認められる場合に限られるべきである。

2 保護室の収容期間は、原則72時間(3日)以内とされ、特に継続の必要がある場合には48時間ごとに更新する必要があり(刑事収容施設法第79条3項)、保護室への収容の必要がなくなったときは、直ちにその収容を中止しなければならない(同条4項)。また、静穏室の収容期間は原則7日間とされ、特に継続の必要がある場合は72時間ごとに更新することが必要となる(法務省矯正第1255通達)。加えて、私人の自由の制限が許されるためには、秩序違反状態を排除するために必要な場合でなければならず、かつ、目的と手段が比例していなければならないという比例原則や憲法第31条の精神に照らすと、法令上の明文根拠のない監視カメラ付き単独室への収容は、保護室や静穏室への収容に準じた必要最小限の期間に限って許容されるべきである。
したがって、監視カメラによる監視の方法・態様・期間等は、必要かつやむを得ない範囲にとどめられるべきである。

3 大阪拘置所は、申立人を監視カメラ付き単独室に収容した理由につき具体的な事情を明らかにしておらず、当会が調査する限り、申立人の言動に好訴傾向や粗暴傾向、自傷傾向などは特に見受けられなかった。
したがって、本件において、申立人には監視カメラによる監視を必要とする高度な危険性が存在するという具体的事情はおよそ認められず、2022年(令和4年)4月21日から申立人を監視カメラ付き単独室に収容したことは、違法なものであったといわざるを得ない。
問題行為が生じたときには、法律上の根拠のある保護室収容や懲罰手続で対処することが検討されるべきであり、安易に監視カメラ付き単独室に収容することは、事実上の懲罰手続を実行するもので、手続の潜脱である。

4 当会が調査する限り、申立人の言動に好訴傾向や粗暴傾向、自傷傾向など特に見受けられず、仮に具体的事情から監視カメラによる監視を必要とする高度な危険性が認められたとしても、監視の方法・態様・期間等は、必要かつやむを得ない範囲にとどめられるべきであって、本件のような長期間にわたった監視が正当化される事情は認められない。
刑事施設においては、被収容者の心身の状況を把握することに努めなければならないところ(刑事収容施設法第56条)、申立人が排泄行為も含めて24時間監視されることに強い心理的負担を受けていることは十分認識されるべきであり、申立人の心身の状況に配慮された形跡は特に認められない。

5 当会は、大阪拘置所における監視カメラ付き単独室の収容に関して、被収容者のプライバシー権を侵害し人格的尊厳を傷つけるものと判断し、平成28年に本件と同一申立人の申立てにかかる勧告を発出し、その他にも数件、警告等を執行している。被収容者に対する監視カメラによる監視については、他の弁護士会においても人権侵害が認定され、警告等が執行されている。
にもかかわらず、大阪拘置所は、同所の取扱いに不当な点はないので前記平成28年勧告は参考として受け止めるにとどめている、と回答しており、改善の姿勢も形跡も全く見受けられず、遺憾と言わざるを得ない。

6 以上の理由から、大阪拘置所に対し、今後、監視カメラによる監視を必要とする高度な危険性が存在するという具体的事情が認められない限り、被収容者を監視カメラ付きの単独室に収容してはならず、かつ、監視の方法・態様・期間等を必要かつやむを得ない範囲にとどめる運用を徹底されるよう、警告した。

大阪拘置所が、未決拘禁者である申立人を、少なくとも1年10か月もの間、合理的な理由が存在しないにもかかわらず、監視カメラ付きの単独室に昼夜収容したことは、憲法第13条によって保障されるプライバシー権を侵害し、人格的尊厳を傷つけるものであり、今後、監視カメラによる監視を必要とする高度な危険性が存在するという具体的事情が認められない限り、被収容者を監視カメラ付きの単独室に収容してはならず、かつ、監視の方法・態様・期間等を必要かつやむを得ない範囲にとどめる運用を徹底されるよう警告した事例

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