大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

未決拘禁者である申立人が、戸籍上の氏名に通称を付した発信者名による弁護人宛の封書等を発信申請したところ、大阪拘置所が受け付けずに返戻し、また、申立人が、戸籍上の氏名を発信者名とした弁護人宛の封書に、返戻された前記封書の封皮等を同封して発信申請したが、大阪拘置所がやはりこれを受け付けず返戻し、同人が前記封書の封皮等を除くまで発信申請を許可しなかったことは、人格権の一部として保護すべき「通称を使用する自由」を不当に制限し、弁護人との接見交通権を不当に制限するものであるとして、今後、申立人が戸籍上の氏名に通称を付した発信者名を用いていることを理由に信書の発信申請を制限しないよう、勧告した事例

2024年(令和6年)3月26日

【執行の概要】

1 氏名は、憲法第13条で保障する人格権の一内容を構成する(最高裁昭和63年2月16日判決参照)。通称を含め個人の氏名には個人識別機能があり、個人が他者から同定され、それまでに形成してきた社会的信用、評価、名誉などの人格権ないし人格的利益が保持されることに重要な意義がある。
通称を使用する者が、一定期間その通称を使用して社会生活を営むことにより、当該通称によって他者から同定され、形成してきた社会的信用、評価、名誉などを伴う人格を表すものとして通称が認識されうる状態になった場合には、人格権が拠って立つ個人の尊重の原理が「個人の自律的な社会関係の形成を尊重すること」 を要請していることに鑑み、通称を使用する自由も、人格権の一部として法的保護の対象になる。

2 申立人の戸籍上の氏名は「C田D夫」であるところ、10年ほど前から「A山B男」という通称を使用して通信販売で物品を購入し、知人から年賀状を受け取るといった社会生活の実態があったと主張しており、家庭裁判所に「D夫」から「B男」へ名の変更許可を求める審判申立手続を行っていること、刑事事件の人定質問において「A山B男ことC田D夫」と答えていること、大阪拘置所に収容されていた2022年(令和4年)6月から同年8月18日までの間、弁護人宛に「A山B男ことC田D夫」を発信者名とする信書が合計8通発信されていること、京都府警察本部から「A山B男ことC田D夫」を宛名とする封筒が複数存在すること等の事情からすれば、申立人が「A山B男」という通称を一定期間使用して社会生活を営んでおり、「A山B男」という通称によって他者から同定され、社会的評価が形成されてきたことが十分うかがえるのであり、申立人の人格を表すものとして通称が認識され得る状態が生じていると認められる。
したがって、申立人の「A山B男」という通称の使用は、法的保護に値する人格的利益に該当し、これを不当に制限することは、人格権の一部として保護すべき「通称を使用する自由」を侵害するものである。

3 本件において申立人が発信申請した発信者名は、「A山B男ことC田D夫」という、戸籍上の氏名に通称を付記したものであり、本来の氏名も明記されている以上、申立人を指すものであることは容易に確認することができ、大阪拘置所職員において検査業務の事務負担が増大したり、違法収容や過誤処理が生じたりすることはおよそ考えられない。
しかも、現在、大阪拘置所においては、刑事事件の担当裁判所との間の信書発受において「A山B男ことC田D夫」の使用を許可しており、弁護人からの「A山B男ことC田D夫」宛名の信書を申立人宛の信書として受け付けていることからすれば、この取り扱いを他の信書の発受に拡大したとしても、業務遂行に特段の支障が生じるとは考えられない。

4 未決勾留時における信書の発信は外部との数少ない連絡手段であり、弁護人との間のものであれば、被疑者・被告人としての防御活動に関わる重要な手段となる。弁護人宛の信書の発信が不当に制限されることは、防御活動そのものに支障を来すおそれがあり、未決勾留者の接見交通権に対する侵害になる。

5 本件において、申立人が、2022年(令和4年)8月18日及び19日に「A山B男ことC田D夫」という発信者名で弁護人宛の封書及び葉書を発信申請したことに対し、発信申請が受け付けられずに返戻されたこと、また、同年同月26日に、戸籍上の氏名を発信者名とした封書に、返戻された上記封書の封皮等を同封した弁護人宛の信書の発信申請も、申立人が上記封皮等を取り除くまで、発信申請を受け付けられなかったため、結果として弁護人宛の信書発信が8日間も遅延したことは、通称を使用する自由を不当に制限すると同時に、接見交通権を侵害したものである。

6 したがって、今後は申立人が「A山B男ことC田D夫」という発信者名を用いていることを理由に信書の発信申請を制限することのないよう、勧告した。

未決拘禁者である申立人が、戸籍上の氏名に通称を付した発信者名による弁護人宛の封書等を発信申請したところ、大阪拘置所が受け付けずに返戻し、また、申立人が、戸籍上の氏名を発信者名とした弁護人宛の封書に、返戻された前記封書の封皮等を同封して発信申請したが、大阪拘置所がやはりこれを受け付けず返戻し、同人が前記封書の封皮等を除くまで発信申請を許可しなかったことは、人格権の一部として保護すべき「通称を使用する自由」を不当に制限し、弁護人との接見交通権を不当に制限するものであるとして、今後、申立人が戸籍上の氏名に通称を付した発信者名を用いていることを理由に信書の発信申請を制限しないよう、勧告した事例

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