大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

警察署留置施設から大阪拘置所へ被留置者を移送する際の引継書に、申立人がHIV感染症に罹患している事実が記載されなかったため、必要な治療が中断してしまった事案に関し、特に、感染症等、治療の遅れが悪化の原因となる症状がある場合、引継書の記載には誤りや不足がないよう、慎重に確認することを大阪府警察本部長に要望した事例

2024年(令和6年)5月27日

【執行の概要】

1 申立人は、2020年(令和2年)7月に警察署留置施設に収容されたが、同施設の担当者は、申立人がHIV感染症に罹患していることを知っていた。留置担当者や警察医は、申立人に対して、医療機関での受診を複数回促したが、申立人が拒否したため、HIV感染症の服薬治療が中断した。

2 同年11月、申立人は大阪拘置所へ移送されたが、「被留置者移送時等の引継書」(以下「本件引継書」という。)における申立人の健康状態等について、HIV感染症罹患の事実や、申立人が拒否したため服薬治療が中断していることは記載されなかった。
拘置所入所時の健康診断において、申立人がHIV感染症に罹患していることを申告した事実は認められず、また、申立人は外部治療の希望を申し出なかった(以前、同拘置所に収容された際には主治医によるHIV感染症の診察を受けるために外部医療機関に通院したことがあること、その当時の姓が異なることも申告しなかった。)。
そのため、大阪拘置所は、申立人がHIV感染症に罹患していることを把握できず、申立人は共同室に収容され、HIV感染症の治療は中断されたままとなった。

3 2021年(令和3年)9月、申立人の刑が確定し、処遇分類のため大阪刑務所へ移送されたが、入所時の健康診断において、申立人はHIV感染症に罹患していること、逮捕前は外部医療機関に通院していたことを申告した。
同年10月、申立人は京都刑務所へ移送され、その際、大阪刑務所から申立人がHIV感染症に罹患している事実も引き継がれた。
同年12月に申立人がニューモシスチス肺炎に罹患していることが判明し、外部医療機関に入院した。HIV感染症の治療中断とニューモシスチス肺炎発症との間には因果関係があると認められ、その後、HIV感染症に対する治療が再開された。

4 警察署においてHIV感染症の治療が中断したことは、申立人自身が受診を拒否していたことによるものであり、また、大阪拘置所においてHIV感染症の治療が中断したことも、申立人が治療を申し出ず、以前の通院事実等を申告しなかったことによるものといえる。
もっとも、申立人がHIV感染症に罹患している事実が、本件引継書によって警察署から大阪拘置所に伝わっていれば、適切に対応され、より早い時期に治療が再開された可能性がある。

5 HIV感染は、治療の中断によってAIDS発症という生命・健康に重大な結果を及ぼす可能性がある重大な問題であり、生命を守るために医療を受ける権利が憲法第13条によって保障されることに鑑みれば、申立人がHIV感染症に罹患している事実は、警察署から大阪拘置所へ引き継がれるべき重大な事実だったといえる。本件引継書に記載すべき内容は、被留置者による治療の希望の有無によって変わるものではなく、重大な疾病や健康状態に関わる過去の既往歴について、遺漏なく記載されることが必要である。

6 本件引継書に申立人のHIV感染に関する事実が記載されなかった理由は不明であるが、実際に記載が不足し、その誤りが誰にも発見されなかったことからすれば、引継書の内容に対するチェック体制が不十分である可能性が高く、再発防止のためには、複数人で、より慎重な確認を行うなど、チェック体制を強化する必要があるため、上記のとおり、要望した。

警察署留置施設から大阪拘置所へ被留置者を移送する際の引継書に、申立人がHIV感染症に罹患している事実が記載されなかったため、必要な治療が中断してしまった事案に関し、特に、感染症等、治療の遅れが悪化の原因となる症状がある場合、引継書の記載には誤りや不足がないよう、慎重に確認することを大阪府警察本部長に要望した事例

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