大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

監視カメラ付き単独室への収容・刑務所の内規に基づく隔離措置の運用・被収容者の通信の発受信における旧姓使用等に関連する事例

2016年(平成28年)1月12日

  1. 大阪拘置所に対して
     大阪拘置所は、2007年(平成19年)8月16日から同年9月3日までの間、申立人を昼夜とも監視カメラ付きの単独室に収容した。
     ここで、監視カメラは、収容者を四六時中監視の下においてそのプライバシーを侵害し、ひいては人格の尊厳を傷つけるものであるから、監視カメラ付きの単独室に収容する措置は、高度の必要性がある場合に限り、やむを得ない措置としてその合理性が認められる。
     しかるに、申立人に持病の腰痛があり、転倒があった場合にすみやかに対応できるようにするためという理由が、監視カメラ付き単独室への収容を正当化する高度な必要性とは認められない。
     もっとも、申立人の当該人権侵害状態が解消されていることを勘案し、大阪拘置所に対し、今後、被収容者を監視カメラ付きの単独室に昼夜収容するにあたっては、監視カメラによって事前に防止する必要がある高度な危険性が認められる場合に限る扱いを徹底するよう勧告した。

  2. 大阪刑務所に対して
     ア 2007年(平成19年)11月13日から2008年(平成20年)3月10日までの間、大阪刑務所長は、申立人を昼夜単独室に収容した。
     刑事収容施設法第76条は、隔離収容が認められるための要件を定めるが、「隔離」のための要件は、厳格に解されている。これは、昼夜間独居が「本来社会的存在である人間としての生活のあり方とかけ離れた不自然な生活を強いるものであり、その継続はそのこと自体苛酷であって受刑者の心身に有害な影響をもたらすだけでなく、行刑の目的の一つである社会生活への適応そのものを阻害する恐れがある」(徳島地裁昭和61年7月28日判決)からである。
     しかるに、本件は大阪刑務所における内規(平成19年6月1日達示第57号「受刑者の隔離及び昼夜居室処遇に関する規定」)内部規程による運用においてこれを行ったものであるが、当該内規は、「保安上隔離の必要がない場合」であっても幅広い裁量の余地を大阪刑務所長に残すものであり、刑事収容施設法第76条に反するものと言わざるを得ない。
     そして、本件についても、内規に定める「他の受刑者との円滑な共同生活を送ることが困難となるような特異な生活や性癖を有し、あるいは、暴力的傾向や他の被収容者の規律秩序違反行為を扇動・助長する傾向等を有する」とは判断できない。
     もっとも、申立人の当該人権侵害状態が解消されていることを勘案し、大阪刑務所に対し、被収容者を昼夜単独室へ収容するにあたっては、単に規律及び秩序を害される一般的、抽象的なおそれがあるだけでは足りず、個々の具体的事情の下で、規律秩序の維持の観点から放置することができない程度の障害が生じる具体的な危機性を必要とする場合に限る扱いを徹底するよう勧告した。
     なお、日本弁護士連合会は、2010年(平成22年)5月19日付勧告書(日弁連総第20号)において、甲府刑務所が受刑者に対し、「いわば予防隔離として隔離を実施し、かつ漫然と51日間も継続」したという同種事案に関し、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律76条1項1号の要件を欠く違法な処遇であり、個人の人格と尊厳を保障した憲法13条、国際人権(自由権)規約7条(非人道的取扱いの禁止)、同規約10条(人道的かつ尊厳に基づく取扱い)及び拷問等禁止条約16条1項に違反するものであり、人権侵害と断ぜざるを得ない。」とし、「隔離の措置をとるのは、単に規律秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるだけでは足りず、個々の具体的事情の下で、規律秩序の維持の点で放置することができない程度の障害が生じる具体的な危険性が認められる場合に限って許され、その場合も規律秩序を維持するため必要な限度を超えてはならず、できる限り短期間で解除しよう」勧告している。
     イ 申立人は、2004年(平成16年)入籍し、改姓しており、同人を当事者とする民事訴訟が係属している裁判所から2007年(平成19年)12月に送達された書類には、旧姓が記載されていた。
    そのため、申立人は、2007年(平成19年)11月22日付で旧姓の使用を願い出た。  これに対し大阪刑務所は、同年12月17日、受信や面会の受付及び差入れについては、旧姓の使用を許可するが発信については不許可とし、申立人にその旨を通知した。
     しかし、氏名は、個人の表象であり、個人の人格の重要な一部であって、憲法第13条で保障する人格権の一内容を構成する(最高裁昭和63年2月16日判決参照)。人は氏名を使って社会、経済生活を営んでいるのであるから、改姓した者が旧姓を使用できない場合は、旧姓に基づいて構築していた社会的地位を失い、新たな姓に基づく社会的地位を再構築しなければならなくなり、その損失は大きいことから、継続して使われた氏は、社会的経済的関係において保護すべきであり、このことは改正前に継続して使った氏についても妥当する。
     また、通常、旧姓は1つであり、こと名使用のため刑務所の事務処理等が煩雑化するおそれや管理運営上の支障をきたすおそれはないばかりか、受信等について認めた旧姓を、発信に限って使用を禁止する合理的根拠はないと言わざるを得ない。
     したがって、本件においては、申立人が旧姓を使用する権利は保護に値する人格的利益を有するところ、本件処理は合理的理由なくその使用を制限しており、申立人の人格的利益を侵害していることから、大阪刑務所は、今後、受刑者の郵便物等の取扱いについて、発信、受信を問わず、旧姓の使用を制限しないよう勧告した。

監視カメラ付き単独室への収容・刑務所の内規に基づく隔離措置の運用・被収容者の通信の発受信における旧姓使用等に関連する事例

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