大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

拘置所における治療困難ながん患者について、速やかに医療刑務所へ移送することを怠った事例

2018年(平成30年)3月15日

 申立人は、死刑判決の確定者であり、再審請求中であったところ、平成25年6月11日、大阪拘置所にて食道がんと診断された。大阪拘置所は、当時、申立人が手術適応にないことから、緩和ケアや対症療法を行うことを相当と判断し、それらを実施した。
 申立人は、同年12月17日に大阪医療刑務所に移送されたが、その際の食道がんの進行度はStageⅣBであり、化学療法や放射線療法が適応となっていた。大阪医療刑務所は、多発性肺転移の存在と申立人の全身状態を考慮し、化学療法を選択した。そして、大阪医療刑務所は、申立人の全身状態が改善した平成26年1月21日より抗がん剤の投与を開始したが、申立人は同年5月15日に食道がんによって死亡した。
 大阪拘置所は、平成25年6月の時点で、申立人が手術適応の状態になかったとして緩和ケアや対症療法を相当として実施する。しかし、大阪拘置所は、抗がん剤治療等の方法についても検討されて然るべきであった。この点につき、大阪拘置所は、同所において終日の全身管理を要する抗がん剤治療を実施することは困難であったなどと指摘するが、その反面で、約半年の間、申立人を大阪医療刑務所に移送しなかった理由を回答しない。
 このような大阪拘置所の姿勢に照らせば、本件においては、申立人を大阪医療刑務所に移送しない特段の事情はなかったといわざるをえない。そこで、当会は、大阪拘置所に対し、申立人の食道がん発覚後、速やかに同人を大阪医療刑務所へ移送することなく、約半年にもわたって緩和ケアや対症療法のみを行い、申立人の適切な医療を受ける権利を侵害したものとして勧告を行った。

拘置所における治療困難ながん患者について、速やかに医療刑務所へ移送することを怠った事例

ページトップへ
ページトップへ