大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

被疑者からDNA型鑑定資料を令状によらず任意に採取する場合には、同資料が原則として令状に基づいて採取されるべきである点に鑑みて、採取の意味、利用・保存方法等の説明を書面により十分に行い、書面による承諾を得るよう勧告した事例。

2020年(令和2年)2月25日

【執行の概要】

1 申立人は、平成28年4月頃、福岡県警察博多警察署において、傷害被疑事件の被疑者として取調べを受けた(逮捕・勾留はされていない)。その際、担当警察官が、令状によらず、また、書面による事前説明及びそれに対する申立人の書面による承諾もなく、申立人の口腔内細胞を剥離し、そのDNA型鑑定資料(以下、単に「DNA」ということがある。)を採取した。

2 警察におけるDNA採取に関する人権救済申立事件については、過去に日弁連が警察庁長官及び静岡県警察本部長に対する勧告(平成29年4月20日付け日弁連総第2号)を行っている。同勧告においては、DNA型情報が「究極の統一的・総合的な個人情報」であることに鑑みて、以下の趣旨の意見が述べられている。

① 具体的な捜査にDNAの採取が必要でないにもかかわらず、データベース化それ自体ないしはデータベースの充実のためにDNAを採取することは、任意であっても許されない。

② また、DNA採取の必要性が認められる場合でも、被疑者からのDNAの採取は原則として令状によるべきであり、任意の採取は、被採取者に対し、採取の意味、利用・保存方法などの説明を書面により十分に行い、被採取者がDNA採取の意味を十分に理解した上で、書面によりその承諾が得られた場合にのみ例外的に許されるというべきである。

③ DNA採取手続に令状主義の精神を没却するような人権侵害が認められる場合においては、警察においてそのような違法な手続によって収集したDNA型情報を保管する正当性は認められず、速やかに抹消すべきである。

3 上記の理は、本件にもあてはまる。本件においては、申立人に関する具体的な捜査にDNA採取の必要性がなかったとまで断定することはできない。しかし、仮に具体的な捜査のためにDNAの採取が必要であったとしても、任意の採取は、被採取者に対し、書面により、採取の意味、利用方法等の説明を十分に行い、被採取者がDNA型鑑定資料採取の意味を十分に理解した上で、書面による承諾が得られた場合にのみ例外的に許されるところ、本件担当警察官は、書面による説明を実施して申立人にDNA採取の意味等を理解させることはなかった。その結果、申立人は、DNA採取に応じざるを得なかった。
このような申立人に対するDNAの採取手続は、事実上の強制採取であり、申立人の自由意思やプライバシー権を侵害し、令状主義の精神を没却するような人権侵害が認められる。
したがって、当会は、警察庁長官及び福岡県警察本部長に対し、被疑者からDNA型鑑定資料を令状によらずに任意に採取する場合には、採取の意味、利用・保存方法等の説明を書面により十分に行い、書面による承諾を得るよう勧告した。

被疑者からDNA型鑑定資料を令状によらず任意に採取する場合には、同資料が原則として令状に基づいて採取されるべきである点に鑑みて、採取の意味、利用・保存方法等の説明を書面により十分に行い、書面による承諾を得るよう勧告した事例。

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