大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

拘置所は、被収容者を対象に新型コロナウイルス感染症にかかるワクチンを含む予防接種を実施するにあたり、接種対象者の要件を正確に確認し、要件に該当する被収容者が接種を希望した場合には、当該被収容者に対し、速やかに接種を受ける機会を提供することを勧告した事例

2024年(令和6年)6月19日

【執行の概要】

1 刑事施設に収容されている被収容者であっても個人として尊重され、疾病に罹患したり負傷したとき、あるいは、疾病を予防するため、現在の医学・医療が到達し実施可能な安全で質の高い医療を受ける権利が保障されている(憲法第13条及び第25条)。
 かかる権利保障を実効化するため、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする予防接種法が制定され、また同法第30条に基づき、新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引きが作成されている。同手引きには、基礎疾患を有するものその他新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高いと医師が認めるものとして、以下のような令和5年春開始新型コロナウイルス予防接種対象者のリストが書かれている。

 初回接種、第1期追加接種、第2期追加接種又は令和4年秋開始接種のうち、被接種者が最後に受けたものの完了から3か月以上経過した者であって、以下に該当するものを対象に、1回行うこととする。
 ① 65歳以上の者
 ② 5歳以上64歳以下の者であって、基礎疾患を有するものその他新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高いと医師が認めるもの(具体的な範囲については、第4章3(13)を参照すること。)
 ③ 重症化リスクが高い多くの者に対してサービスを提供する医療従事者等及び高齢者施設等の従事者

2 申立人は、逮捕前、「広汎性発達障害」及び「対人コミュニケーション障害」の診断を受け、精神科クリニックに通院していた。精神保健福祉手帳の発行も受け、その後、更新を重ねていた。
 申立人のような精神保健福祉手帳所持者は、「重い精神疾患」たる「基礎疾患を有する者」に該当し、令和5年春開始接種の対象者に含まれる。にもかかわらず、拘置所は、申立人に対し、接種対象者の要件を満たさないとして、同予防接種を実施しなかった。その理由として、「精神障害を有することを自ら疎明するよう伝えたものの、申立人から疎明されなかったため」としているが、申立人は、当時、健康保険福祉手帳所持者であり、精神障害を有することの疎明を求める必要などなかった。また、拘置所は、当時、申立人の精神保健福祉手帳を保管していたことから、申立人が同手帳保持者であり接種対象者の要件を満たすことを認識していたか、仮に認識していなかったとしても認識可能であった。
 以上の事実からすると、拘置所は、厚生労働省が定めた新型コロナウイルスワクチン接種対象者の要件に該当する申立人が接種を希望していたにもかかわらず、合理的な理由なく接種を実施しなかったものと言わざるを得ず、拘置所の対応は、憲法第13条及び第25条で保障された申立人の安全で質の高い医療を受ける権利を侵害していると判断し、上記のとおり勧告した。

拘置所は、被収容者を対象に新型コロナウイルス感染症にかかるワクチンを含む予防接種を実施するにあたり、接種対象者の要件を正確に確認し、要件に該当する被収容者が接種を希望した場合には、当該被収容者に対し、速やかに接種を受ける機会を提供することを勧告した事例

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