大阪弁護士会の活動

人権擁護委員会

死刑確定者である被収容者が当事者となる民事訴訟手続において、裁判所から出頭を求められ、被収容者が出頭許可を求めた場合には、出頭許可によって拘置所内の規律・秩序の維持に放置できない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があるという十分な根拠があり、出頭制限することが必要かつ合理的と認められる場合を除き、出頭を許可するよう、警告した事例

2024年(令和6年)12月23日

【執行の概要】

1 申立人Xは、Yから名誉を棄損されたとして損害賠償請求訴訟を徳島地方裁判所に提起した。
徳島地方裁判所は第1回口頭弁論期日を指定し、申立人に呼出状を送付して出頭を求めたが、大阪拘置所が許可せず、申立人は出頭することができなかった。
申立人が移送を申し立て、本件訴訟は大阪地方裁判所へ移送された。
大阪地方裁判所は第2回口頭弁論期日を指定し、申立人に対し呼出状を送付して出頭を求めたが、大阪拘置所が再び許可せず、申立人は出頭することができなかった。その結果、当事者双方が連続して2回、口頭弁論期日に出頭しなかったとして民事訴訟法第263条後段が適用され、訴えの取下げがあったものとみなされた。

2 大阪拘置所は、出頭を許可しなかった理由として、訴訟代理人を選任可能であること、当該口頭弁論期日において本人尋問等が予定されていないこと、申立人を出頭させるには別途戒護職員や護送車両を確保する必要があり、「管理運営上の支障」が生じることなどを総合的に考慮したと回答したが、「管理運営上の支障」の内容については、被収容者の収容確保並びに、処遇のための適切な環境及び安全かつ平穏な共同生活を維持する目的を実現するために執り得る様々な措置に支障が生じる、という抽象的な説明しかなかった。

3 裁判を受ける権利(憲法第32条)は、刑事施設に収容されている者であっても最大限尊重されるべきであり、裁判の当事者として裁判所に出頭し、自ら主張立証する権利が保障されなければならない。被収容者に対する権利制限は、収容目的と施設管理の規律保持のための必要最小限のものに限られるべきであって、刑事施設長に、裁判所への出頭の許否に対する広範な裁量を認めるべきではない。
したがって、被収容者の裁判所への出頭制限は、出頭許可により拘置所内の規律・秩序の維持に放置できない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があるという十分な根拠があり、出頭を制限することが必要かつ合理的と認められる場合に限られるべきである。
民事訴訟手続において弁護士選任は強制されていない以上、被収容者に弁護士選任を事実上強制されることは許されず、被収容者が適切な弁護士を選任することは事実上困難であるところ、2回連続で口頭弁論期日に出頭しなければ、訴訟の取下げとみなされ、訴訟を継続することができなくなる可能性が高い。
以上の理由から、被収容者の民事訴訟手続における出頭を不当に制限しないよう、当会は、大阪拘置所に対して令和4年3月22日付で勧告した。

4 にもかかわらず、大阪拘置所は、護送車両・戒護職員等の確保が必要という抽象的理由で申立人の裁判所への出頭を不許可とした。申立人は死刑確定者であり、他の未決拘禁者と異なり、弁護士と接する機会が限りなく少ないことに鑑みれば、申立人自身が裁判所へ出頭する権利は最大限尊重されるべきである。
大阪拘置所は、申立人の裁判を受ける権利を著しく侵害し、当会の前記勧告内容を無視して同じ人権侵害を繰り返したものであり、重大性は看過できない。
なお、現行民事訴訟法では、いわゆるウェブ会議を利用した口頭弁論期日参加も認められているので、仮に、被収容者の裁判所への出頭を制限することが必要かつ合理的と認められる場合であっても、ウェブ会議を利用した参加方法が可能となるよう、大阪拘置所はシステム配備にも対応すべきである。

5 以上の理由から、その人権侵害の重大性に鑑み、上記のとおり、警告した。

死刑確定者である被収容者が当事者となる民事訴訟手続において、裁判所から出頭を求められ、被収容者が出頭許可を求めた場合には、出頭許可によって拘置所内の規律・秩序の維持に放置できない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があるという十分な根拠があり、出頭制限することが必要かつ合理的と認められる場合を除き、出頭を許可するよう、警告した事例

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